漢詩紹介

読み方

  • 述懷<藤田小四郎>
  • 從來世事 去って悠悠
  • 空しく英豪をして 素謀を齊しゅうせん
  • 紅艶枝を辭して 風裏に散じ
  • 翠煙樹を繞らして 雨餘に浮かぶ
  • 忽ち醒む京洛 三春の夢
  • 更に添う爐邊 萬里の愁い
  • 今日何人か 天子を護らん
  • 攘夷の鳳詔 涙収め難し
  • じゅっかい<ふじたこしろう>
  • じゅうらいせじ さってゆうゆう
  • むなしくえいごうをして そぼうをひとしゅうせん
  • こうえんえだをじして ふうりにさんじ
  • すいえんじゅをめぐらして うよにうかぶ
  • たちまちさむきょうらく さんしゅんのゆめ
  • さらにそうろへん ばんりのうれい
  • こんにちなんびとか てんしをまもらん
  • じょういのほうしょう なみだおさめがたし

字解

  • 悠 悠
    はるか遠い
  • 英 豪
    英雄豪傑 国事に奔走した人たち
  • 齊素謀
    日ごろの計画を処理する 「素謀を齊しゅうせしむ」とも読む
  • 紅 艶
    赤く美しい花
  • 翠 煙
    翠の美しいもや
  • 京 洛
    京都
  • 爐 邊
    炉端
  • 鳳 詔
    天皇の言葉 詔勅(しょうちょく)

意解

 これまで世の中のことは変転してはるか遠くに過ぎ去ってゆき、(その月日は志を同じくしていた)英雄豪傑の日ごろの計画も空しく何もなかったように処理してしまった。
 赤く美しい花は風の中に散るように英傑は次々にこの世から去り、翠の美しいもやは樹木の周囲で雨上がりの空に煙るように自分だけが取り残された。
 京都において同志とともに緊張の日々を送った、3ヶ月の春の夢も突如として醒め、さらに今は炉端にあって日本の遠き前途を憂うるのである。
 今日このようなありさまで、果たして誰が天皇をお護りしていくのだろうか、かつて攘夷の詔勅が下されたことを思い起こすと、涙が流れるのをどうすることもできない。

備考

 この詩の構造は、平起こり七言律詩の形であって、下平声十一尤(ゆう)韻の悠、謀、浮、愁、収の字が使われている。
 第六句二字目が仄字になるべきところが平字となっており、第七句も二六同となっていない。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

藤田小四郎 1842-1865

 水戸藩士藤田東湖の四男。名は信、字は子立、号は先憂樓。常陸の国(茨城県水戸)で生まれる。性格は頴敏(えいびん)で、長ずるに及び皇運の拡張と外海斥攘(せきじょう)(外敵を斥=しりぞ=ける攘夷の主張)を以て任とした。東奔西走し各地の同志と交わり、のち義兵を挙げ慶応元年(1865)2月、越前(敦賀)で捕らわれ処刑された。年24。