漢詩紹介

読み方
- 述懷<雲井龍雄>
- 生きては生を聊んぜず 死すとも死せず
- 呻吟聲裏 仆れて又起つ
- 馬を湖山に立つる 彼も一時
- 雄飛壯圖は 長く已みぬ
- 我が生涯り有り 愁い涯り無し
- 悠悠前途 果たして如何
- 咄咄説くを休めよ 斷腸の事
- 滿江の風雨 波花を生ず
- じゅっかい<くもいたつお>
- いきてはせいをやすんぜず しすともしせず
- しんぎんせいり たおれてまたたつ
- うまをこざんにたつる かれもひととき
- ゆうひそうとは ながくやみぬ
- わがせいかぎりあり うれいかぎりなし
- ゆうゆうぜんと はたしていかん
- とつとつとくをやめよ だんちょうのこと
- まんこうのふうう なみはなをしょうず
字解
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- 不 聊
- やすまることがない
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- 呻 吟
- 苦しんでうめく
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- 立 馬
- ここでの馬は作者自身のことの形容
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- 湖 山
- 山河 ここでは故郷
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- 彼一時
- 彼自身が帰ってきたのもほんの一時
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- 雄 飛
- 勢い盛んに活動
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- 壯 圖
- 大きな計画 盛んな事業
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- 已 矣
- 矣(い)は語の終わる意 断定の意を表す助字
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- 悠 悠
- はるかに限りない
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- 咄 咄
- 舌打ちする声 驚いて嘆く声
意解
生きていても常に安らかに生きられず、かといって死ぬこともできず、苦しんでうめきつつ七転八倒してきた。
ほんの一時故郷に帰ることが出来たものの、自分が今まで行ってきた活動や計画は永遠に断たれてしまった。
自分の生命には限りがあるが、反対に愁い(やらねばならないこと)は尽きることがない。我が国の前途は果たしてどうなるのであろうか。
(国のために)自分の考えを説いてきたが、もう何も言うまい。まことに腸もちぎれる思いである。しかし、水を満ちたたえた大河の水面は風雨によって美しい花のような波紋を生じているではないか。(やがて平和な世の中が生まれてくるであろう)
備考
この詩の構造は、七言古詩の形であって上声四紙(し)韻の死、起、矣と下平声六麻(ま)韻の涯、 花と下平声五歌(か)韻の何の字が使われている。(涯は上平声九佳もある)
作者略伝
雲井龍雄 1844-1870
米沢藩士(山形県)。本名は中島守善、号は枕月(ちんげつ)。通称辰三郎。年少のころから文武に優れ、長じて弁論が巧みで精悍(せいかん)奇才(勇ましくて、すぐれた才能)豪傑の士といわれた。早くから時勢を憂い、官軍(薩・長連合軍)の奥羽征討に当たって奔走したが、ついに官軍のため平定される。時局に不満を抱き乱を起こそうとしたが捕らわれ、明治3年12月小塚原に於いて処刑される。年27。