漢詩紹介

吟者:CD④収録 池田菖黎
2016年11月掲載

読み方

  • 水戸八景<德川齊昭>
  • 雪時嘗て賞す 仙湖の景
  • 雨夜更に遊ぶ 青柳の頭
  • 山寺の晩鐘 幽壑に響き
  • 太田の落雁 芳洲を渡る
  • 花光爛漫たり 岩船の夕べ
  • 月色玲瓏たり 廣浦の秋
  • 遙かに望む村松 青嵐の後
  • 水門の歸帆 高樓に映ず
  • みとはっけい<とくがわなりあき>
  • せつじかつてしょうす せんこのけい
  • うやさらにあそぶ あおやぎのほとり
  • さんじのばんしょう ゆうがくにひびき
  • おおたのらくがん ほうしゅうをわたる
  • かこうらんまんたり いわふねのゆうべ
  • げっしょくれいろうたり ひろうらのあき
  • はるかにのぞむむらまつ せいらんのあと
  • みなとのきはん こうろうにえいず

字解

  • 仙 湖
    千波湖(せんばこ)
  • 青 柳
    那珂川(なかがわ)の上流
  • 幽 壑
    奥深い谷あい
  • 芳 洲
    匂いのよい花が生えている中洲
  • 爛 漫
    花の咲き乱れるさま
  • 玲 瓏
    麗しく光り輝く
  • 青 嵐
    青々とした山(山の気) 青葉を吹き渡る風
  • 水 門
    那珂湊
  • 高 樓
    高殿

意解

 かつて千波湖の雪景色を楽しんだこともあり、更には雨の夜に青柳のほとりを気持ちよく遊んだこともある。
 山寺の晩鐘は奥深い谷あいに響きわたり、太田あたりに飛来する雁は花の咲き匂う中洲を渡る。
 花の香に満ち、爛漫と咲きみだれる岩船あたりの花々は夕陽に映え、広浦の秋の月もたいそう美しく輝いている。
 また、村松あたりの青々と連なる樹々を風が吹き渡った後の遠望や、那珂港に帰る舟も高殿に美しく映えている。

備考

 德川齊昭の水戸藩領内の絶景8ケ所を選び中国の瀟湘(しょうしょう)八景に模して詠じたもの。
 この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、下平声十一尤(ゆう)韻の頭、洲、秋、樓の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

德川齊昭 1800-1860

 幕末の大名。江戸に生まれた。景山(けいざん)、潜龍閣(せんりゅうかく)と号した。文政12年(1829)兄の水戸藩主斉脩(なりのぶ)の死に伴い、藤田東湖(ふじたとうこ)ら藩政改革派の推戴(すいたい)により藩主となった。従来の兵法に西洋式軍備、軍事学を導入。藩校弘道館を設立し、社寺の整理にもあたるが、のち門閥派と対立、弘化元年(1844)幕命により隠居を命ぜられた。万延元年61歳にて没す。

参考

 水戸八景 ①青柳夜雨 ②山寺晩鐘 ③太田落雁 ④村松青嵐 ⑤水門帰帆 ⑥岩舟夕照 ⑦広浦秋月 ⑧仙湖暮雪