漢詩紹介

CD②収録 吟者:松野春秀
2015年 4月掲載

読み方

  • 志士平野國臣<松口月城>
  • 維新の人物 孰か倫を超ゆる
  • 平野次郎 名は國臣
  • 夙に勤王を唱えて 肝膽を碎き
  • 潛かに倒幕を圖りて 幾艱辛
  • 獄中紙を撚りて 孤憤を敍べ
  • 月下兒に訣れて 親たらざるを悲しむ
  • 義擧一朝 事敗ると雖も
  • 英魂凛凛 永く神を傳う
  • ししひらのくにおみ<まつぐちげつじょう>
  • いしんのじんぶつ たれかりんをこゆる
  • ひらのじろう なはくにおみ
  • つとにきんのうをとなえて かんたんをくだき
  • ひそかにとうばくをはかりて いくかんしん
  • ごくちゅうかみをよりて こふんをのべ
  • げっかこにわかれて おやたらざるをかなしむ
  • ぎきょいっちょう ことやぶるといえども
  • えいこんりんりん ながくしんをつとう

字解

  • 志 士
    気高い志を持っている人 国家 社会の為に身をなげうって尽くそうとする人
  • 超 倫
    普通よりすぐれている
  • 早くから 以前から
  • 肝 膽
    こころ おもい 心の底 まごころ
  • 艱 辛
    艱難辛苦
  • 孤 憤
    自分ひとりが忠義を尽くして世にいれられない憤り
  • 義擧一朝
    平野国臣らが但馬の生野で兵を挙げたこと
  • 英 魂
    すぐれた人の魂
  • 凛 凛
    寒さが身にしみいること 勢いが盛んで勇ましいようす りりしい

意解

 幕末維新前後には、憂国勤王の志士が多く出たが、その中でも、すぐれた勤王の志士として有名なのは誰でしょうか、それは平野国臣である。
 早くから勤王を唱えて心を砕き、潜かに倒幕を図り艱難辛苦に耐えた。
 幕吏に捕らえられ獄中でこよりを撚って文字の形にし、神武必勝論という本を書いた。また挙兵のときは一人娘と訣れを惜しみ、親として一緒に暮らせないのを悲しんだ。
 倒幕のため生野で兵を挙げたが結局は失敗に終わり、捕らえられて処刑されたが、国を思うりりしい心は永く後世まで尊い精神として伝えられている。

備考

 この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、上平声十一眞(しん)韻の倫、臣、辛、親、神の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

松口月城 1887-1981

 名は栄太(えいた)、号は月城、明治20年福岡市有田に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し、18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。

参考

生野の変
1863年(文久3年)尊王攘夷派が但馬国(兵庫県)生野で起した倒幕の挙兵。
 1863年8月京都の政変で敗れた尊攘派は、筑前の平野国臣、薩摩の美玉三平らが中心に、但馬の豪農らにはたらきかけ、農兵隊を組織して生野の幕府代官所をおそい占領した。挙兵後3日で敗退し、平野国臣は脱走の途中捕らえられ、翌年7月獄死する。