漢詩紹介

吟者:中谷 淞苑
2005年8月掲載
読み方
- 天草の洋に泊す<賴山陽>
- 雲耶山耶呉耶越か
- 水天髣髴青一髪
- 萬里舟を泊す天草の洋
- 煙は篷窗に横たわって日漸く没す
- 瞥見す大魚の波間に跳るを
- 太白船に當たって月似りも明らかなり
- あまくさのなだにはくす<らいさんよう>
- くもか やまか ごかえつか
- すいてん ほうふつ せいいっぱつ
- ばんり ふねをはくす あまくさのなだ
- はむりは ほうそうによこたわって ひ ようやくぼっす
- べっけんす たいぎょの はかんにおどるを
- たいはく ふねにあたって つきよりもあきらかなり
字解
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- 呉・越
- 中国の春秋時代の国名
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- 髣 髴
- かすかにぼんやりと見えるさま
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- 青一髪
- 髪の毛一筋ほどの青さ 水平線を表した語
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- 篷 窗
- 舟の窓
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- 瞥 見
- ちらりと見える
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- 太 白
- 金星
意解
海上に遠く見えるのは、雲だろうか、山だろうか、それとも呉の国だろうか、越の国だろうか。海と空とが接するあたりに、かすかに髪の毛一筋ほどの青いものがぼんやりと見える。
万里のかなたに広がるこの天草の洋に舟を泊めているが、夕もやが舟の窓のあたりにたなびいて、太陽はしだいに西の海に沈んで行く。
そして、一瞬、大魚の波間にはねる姿がちらりと見えた。空を見上げると、宵の明星が舟の正面に明るく輝いて、月よりも明るかった。
備考
この詩の構造は七言古詩の形であって、入声(にっしょう)六月(りくげつ)の韻の越、髪、没、月の字が使われている。古詩は平仄を論じない。
作者略伝
賴 山陽 1780-1832
名は襄(のぼる)、字(あざな)は子成、号は山陽。安永9年12月大阪江戸堀に生まれた。父春水は安芸藩 の儒者。7歳にして叔父杏平について書を読み、十八歳で江戸に遊学した。二十一歳京都に走り脱藩の罪により幽閉される。後、各地を遊歴し、 天保3年9月病のために没。年五十三歳。著書に「日本外史」「日本政記」「日本楽府」等がある。