漢詩紹介

吟者:熊谷峰龍
2011年1月掲載[吟法改定再録]

読み方

  • 九月十三夜<上杉謙信>
  • 霜は軍營に満ちて秋氣清し
  • 數行の過雁月三更
  • 越山併せ得たり能州の景
  • 遮莫家郷の遠征を憶うを
  • くがつじゅうさんや<うえすぎけんしん>
  • しもはぐんえいにみちて しゅうききよし
  • すうこうのかがん つきさんこう
  • えつざんあわせえたり のうしゅうのけい
  • さもあらばあれ かきょうの えんせいをおもうを

字解

  • 軍 營
    陣営 軍隊の宿営しているところ
  • 數行過雁
    列をなして飛んでいく雁
  • 三 更
    夜の十二時ごろ
  • 越 山
    越後(今の新潟県)・越中(今の富山県)の山々
  • 能 州
    能登(今の石川県能登半島地方)の国
  • 遮 莫
    ままよ どうであろうともかまわない
  • 家 郷
    ふるさと

意解

 霜は我が陣営に満ちみちて、秋の気は清く澄みわたり、いかにもすがすがしい。空を仰ぐと、幾列かの雁が鳴き渡っており、夜半の月は皎々と冴えわたっている。
 さて今夜は、越後・越中の山々に、更に能登も併せて、まことに雄大な景色が眺められることだ。
 ままよ、故郷の家族どもが遠征の我が身をあんじていようが、それならそれでよい。今夜はこの名月を心ゆくまで眺めようではないか。

備考

 天正五年上杉謙信が七尾城攻略の際、落城を目前にして、折からの九月十三夜の名月のもと酒宴を催し、得意満面の感慨を読んだもの。一生の間に作った漢詩はこれだけである。この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声八庚(こう)韻の清、更、征の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

上杉 謙信 1530-1578

 幼名を虎千代(とらちよ)、元服して影虎(かげとら)といいまた不識庵(ふしきあん)と号す。三十二歳の時輝虎(てるとら)と改めさらに四十一歳以後は謙信と称す。彼の有名な川中島に於ける武田信玄(しんげん)との一騎打ちは史家により種々の説あり。永禄(えいろく)4年9月(1561)年三十一歳の時ともいわれている。常に朝廷の衰微(すいび)を嘆き時に資を献じてその勢いを張っていたが天正6年四十九歳にて没す。