漢詩紹介

吟者:山口 華雋
2009年6月掲載
読み方
- 偶成<鍋島閑叟>
- 孤島團を結んで 意気豪なり
- 西南眥を決すれば 萬重の濤
- 黠奴若し邊を 窺うの事有らば
- 羶血飽くまで膏せん 日本刀
- ぐうせい<なべしまかんそう>
- ことうだんをむすんで いきごうなり
- せいなんまなじりをけっすれば ばんちょうのなみ
- かつどもしへんを うかがうのことあらば
- せんけつあくまであぶらせん にっぽんとう
字解
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- 孤 島
- 一つの離れ島 即ち日本の国
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- 決 眥
- 眼を張り切って見つめる
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- 黠 奴
- 外国の悪もの
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- 窺 邊
- 日本の周辺を侵すこと
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- 羶 血
- なまぐさい血
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- 飽 膏
- 十分に切り殺す
意解
我が国民は団結して意気は今極めて豪壮である。眼尻を張りつめて西南の方を眺めれば万重の波は渺々(びょうびょう)として限りがない。
外国の悪者がもし我が国の周辺を侵すことがあれば、忽ちこの日本刀で切り殺し防御(ぼうぎょ)しばければならない。
備考
この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声四豪(ごう)韻の豪、濤、刀の字が使われている。起句の團、結句の膏は共に平字で孤平の形である。孤平とは七言の場合、第四字目をいうのである。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
鍋島閑叟 1814-1871
幕末維新の佐賀藩士。名を直正(なおまさ)、幼名は貞丸、閑叟は号である。 藩主の斉直(なりなお)の長男。教育振興のため藩校弘道館の移転拡張。蘭学、英学も奨励、一方、長崎砲台 を増築、反射炉で鉄製大砲を鋳造、日本最初の蒸気船も浸水させた。維新の変革期には公武合体を斡旋(あっせん) 。新政府の議定(ぎじょう)、軍防事務局輔(すけ)、制度事務局輔を兼任。上局議長、蝦夷(えぞ)開拓督務などを 歴任した。明治4年1月没す。年58。