漢詩紹介

吟者:辰巳快水
2010年11月掲載

読み方

  • 逸題<篠原國幹>
  • 馬を緑江に飮うは 果たして何れの日ぞ
  • 一朝事去って 壯圖差う
  • 此の間誰か解せん 英雄の恨み
  • 手を袖にして春風に 落花を詠ず
  • いつだい<しのはらこっかん>
  • うまをりょっこうにみずこうは はたしていずれのひぞ
  • いっちょうことさって そうとたごう
  • このかんたれかかいせん えいゆうのうらみ
  • てをそでにしてしゅんぷうに らっかをえいず

字解

  • 緑 江
    鴨緑江のことで朝鮮と中国(旧満州)の間を流れる大河
  • 壯 圖
    大きな計画 ここでは朝鮮を討つ計画をさす
  • 一 朝
    ひとたび
  • 事 去
    征韓論に敗れた西郷等の下野をさす
  • 袖 手
    何もしないでぶらぶらしていること

意解

 軍馬に鴨緑江の水を飲ませる日はいつの事かと、軍令の下るのを待ちうけていたが、西郷以下の征韓論は敗れ、雄図空しく故郷に帰った。
 この心境英雄の恨みを誰かが知ってくれるだろうか。今はただなすこともなく、春風に、散りゆく花をながめて詩を作っているのである。

備考

 この詩は、征韓論に敗れた西郷の後を追い郷里鹿児島に帰り無聊(ぶりょう)不平の心情をのべたものである。詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声六麻(ま)韻の差、花の字が使われている、起句は踏み落としになっている。起句の江は孤平であり、二六同になっていない。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

篠原國幹 1836-1877

 旧薩摩藩士で陸軍少将。天保7年12月鹿児島城下に生まれる。性格温厚篤実(とくじつ)にして沈勇、軍略に優れ、西郷隆盛の同志として維新の際に活躍した。維新後近衛の長官となったが征韓論に敗れた西郷に随って帰郷、明治10年西南の役に私学校党の首領として乱に加わり、吉次峠の戦に重傷を受け死す。年42。