漢詩紹介

読み方
- 阿部野<廣瀬旭莊>
- 興亡千古 英雄を泣かしむ
- 虎鬪龍爭 夢已に空し
- 問わんと欲す南朝 忠義の墓
- 蕎花秋は仆る 野田の風
- あべの<ひろせきょくそう>
- こうぼうせんこ えいゆうをなかしむ
- ことうりゅうそう ゆめすでにむなし
- とわんとほっすなんちょう ちゅうぎのはか
- きょうかあきはたおる やでんのかぜ
字解
-
- 千 古
- 遠い昔 とこしえ 永遠
-
- 虎鬪龍爭
- 龍虎の闘争 敵味方戦うこと
-
- 南 朝
- 吉野朝ともいう 後醍醐天皇延元元年神器を奉じて吉野に遷幸(せんこう)せられ爾来後村上 長慶 後亀山の三帝まで吉野賀名生(あのう)に行在所(あんざいしょ)があり 元中(げんちゅう)9年(1392)北朝の後小松天皇に攘夷されるまでの57年間をいう
意解
史上の盛衰興亡は、とこしえに英雄をかなしませるものである。かつて、龍虎相戦った戦跡も今は空しく一場の夢に帰した。
それを知る手だてもない。私はここ阿部野に南朝の忠臣北畠顯家卿(きたばたけあいきえこう)の墓を訪ねてきたのであるが、秋風に野田(やでん)の蕎花が吹き仆されたあたりの光景には、一段と寂寥の感を催したのであった。
備考
阿部野は現大阪市阿倍野区で、南朝の忠臣北畠顯家が足利の大軍と戦って戦死したところ。親房(ちかふさ)、顯家を祀る阿部野神社あり。詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、上平声一東(とう)韻の雄、空、風の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
---|---|---|---|
作者略伝
廣瀬 旭莊 1807-1863
名は謙、字は吉甫(きちほ)、通称謙吉、旭莊は号。淡窓の末弟。兄淡窓と亀井昭陽に学ぶ。のち大阪に住み、兄淡窓と共に詩名東西に鳴る。才気横溢(おういつ)、長篇大作を遺(のこ)す。勤王の志厚く諸侯の招聘(しょうへい)を断り摂津池田に退隠、文久3年8月没す。年56。