漢詩紹介

読み方
- 山の夜<嵯峨天皇>
- 居を移して今夜 薜蘿に眠る
- 夢裏の山雞 曉天を報ず
- 覚えず雲來って 衣暗に濕う
- 即ち知る家は 深溪の邊に近きを
- やまのよる<さがてんのう>
- きょをうつしてこんや へいらにねむる
- むりのさんけい ぎょうてんをほうず
- おぼえずくもきたって ころもあんにうるおう
- すなわちしるいえは しんけいのほとりにちかきを
字解
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- 薜 蘿
- まさきのかずらと つたかずら
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- 夢 裏
- ゆめのなか
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- 山 雞
- やまどり
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- 曉 天
- 夜明けの空 明け方
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- 暗 濕
- いつのまにかしめる
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- 深 溪
- ふかいたにま
意解
今夜は久方ぶりに御所を出て、かずらが垂れ下がっている木深いところで、ぐっすり眠ったのである。夢もまださめず、うとうとしているとき山鳥がしきりに鳴き夜明けをつげた。
雲(くも・もや)が山居をつつんでいて知らぬまに衣服がしめっていた。そこで、なるほどこの家は深い谷川の近くにあるのだと、わかったのである。
備考
この詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、下平声一先(せん)韻の眠、天、邊の字が使われている。結句は平下三連に作られ破格である。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
嵯峨天皇 786-842
第52代の天皇。平安朝初期の漢詩人で書家。御名(ぎょめい)は神野(かみの)、第50代桓武(かんむ)天皇の第二皇子として降誕された。幼時より聡明で読書を好み、博く経史に通じ、詩文に長ぜられ、諸芸にも精(くわ)しく、僧空海、橘逸勢(たちばなのはやなり)とともに三筆と称された。また仏道にも帰依(きえ)せられ東寺を空海に賜いて真言宗の根本道場とさせた。文化の興隆に努められると共に諸式、諸官をも設けた。これによって平安朝の制度文物(法律、学問、芸術、宗教)は備わった。御歳(おんとし)24歳で即位され御在位14年、皇位を淳和(じゅんな)天皇に譲られ、承和(じょうわ)9年7月15日、57歳で嵯峨院(今の大覚寺)で崩御された。御陵は嵯峨山上陵(さがのやまのえみささぎ 京都市右京区)