漢詩紹介

読み方
- 月夜禁垣外を歩す<柴野栗山>
- 上苑の西風 桂香を送り
- 承明門外 月霜の如し
- 何人か今夜 淸涼殿
- 一曲の霓裳 御觴を奉ず
- げつやきんえんがいをほす<しばのりつざん>
- じょうえんのせいふう けいこうをおくり
- しょうめいもんがい つきしものごとし
- なんびとかこんや せいりょうでん
- いっきょくのげいしょう ぎょしょうをほうず
字解
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- 禁 垣
- 御苑の垣根 土壁
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- 上 苑
- 帝の御庭 御苑
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- 西 風
- 秋風
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- 桂 香
- 木犀(もくせい)の香り
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- 承明門
- 御所の正面の御門
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- 淸涼殿
- 帝が常にお住まいの御殿 紫宸殿(ししんでん)の西にある
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- 霓 裳
- 霓裳羽衣(うい)の曲 天人を歌った西域伝来の舞曲 玄宗が愛好し楊貴妃はこの舞を得意とした
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- 御 觴
- 帝の杯
意解
御苑のほとりには秋風が木犀の香りをただよわせ、承明門の辺りは月光が冴えわたり、まるで霜がおりたように白い。
折から妙なる音楽が聞こえて来たが、今夜誰かが清涼殿で霓裳羽衣の一曲を奏して、帝に御杯(みさかずき)をさしあげているのであろう。
備考
この詩の構造は仄起こり七言絶句の形であって、下平声七陽(よう)韻の香、霜、觴の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
柴野栗山 1736-1807
名は邦彦。字は彦輔(ひこすけ)、号は栗山。元文元年四国讃岐の生まれ。江戸中期の儒者。後藤芝山(しざん)に師事し、のち阿波蜂須賀藩の儒者となった。その後幕府に迎えられ昌平黌(しょうへいこう)教授となり、朱子学を振興させた。朱子学以外の学問を修めた者の登用を禁止する運動を幕府にし、「異学者登用禁止令」が発令されるに至った。文化4年没す。年71。著書に「栗山堂詩集」「冠服考証」等がある。なお、高松市の牟礼(むれ)町に栗山記念館がある。