漢詩紹介

読み方
- 諸生に示す<安積艮齋>
- 君を戒む見る勿れ 墨陀の花
- 花下の美人 花華を遜る
- 君を戒む見る勿れ 墨陀の月
- 月下の少婦 月潔きを恥ず
- 先哲陰を惜しんで 勤めて精研す
- 何の暇あってか 花月流連に耽らん
- 吾書生を閲すること 三十年
- 志業多くは 花月に因って捐つ
- しょせいにしめす<あさかごんさい>
- きみをいましむみるなかれ すみだのはな
- かかのびじん はなかをゆずる
- きみをいましむみるなかれ すみだのつき
- げっかのしょうふ つききよきをはず
- せんてついんをおしんで つとめてせいけんす
- なんのいとまあってか かげつりゅうれんにふけらん
- われしょせいをけみすること さんじゅうねん
- しぎょうおおくは かげつによってすつ
字解
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- 墨 陀
- 墨田川 隅田川とも書く
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- 花遜華
- 桜の花はその華麗さにおいて見劣りする
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- 少 婦
- 若い婦人
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- 月恥潔
- 月はその清らかさにおいて恥ずかしく思う
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- 先 哲
- 昔の賢人
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- 惜 陰
- 少しの時間も惜しむ
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- 精 研
- ひたすら学問を研(みが)く
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- 流 連
- 遊びに耽る
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- 閲
- 観察する
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- 志 業
- 大志や学業
意解
塾生諸君に戒めておくが、(君たちは書生であり学問修業の身であるから)決して墨田川のほとりで花見などに時を費やしてはならない。桜の下には花もその華麗さにおいて見劣りするほどの美人がいて君たちをとりこにするであろうから。
塾生諸君に戒めておくが、決して墨田川のほとりで月見などに時を費やしてはならない。月の下には月もその清らかさにおいて恥ずかしいと思うほどの若い婦人がいて君たちを惑わすであろうから。
昔の賢人は少しの時間も惜しんで学問を研いたもので、君たちはどういう暇があって、花月を見て遊びに耽っておられようか。
私は30年間書生を観察してきたが、その大志も学業も多くは花月の遊びのために放棄してしまっている。(このところを深く心得なければいけない)
備考
この詩は近体詩の平仄法にかなっていないので七言古詩であり、したがって平仄は問わない。韻は下平声六麻(ま) 韻の花、華と入声(仄韻)六月(げつ)韻の月、入声(仄韻)九屑(せつ)韻の潔、下平声一先(せん)韻の研、連、年、捐の字が使われている。
作者略伝
安積艮齋 1790-1860
江戸時代後期の詩人。奥州岩代国安積(おうしゅういわしろのくにあさか)郡(福島県郡山市)の安積国造(あさかくにつこ)神社の神官安積親重(ちかしげ)の三男として生まれ、名は重信(しげのぶ)、字を思順(しじゅん)、通称祐助(ゆうすけ)といい、艮齋、見山樓(けんざんろう)と号す。幼い時から二本松藩今泉徳輔(のりすけ)、八木敬蔵に学ぶ。16歳のとき江戸に出て佐藤一齋(いっさい)に学び、努力勉励し、のち故郷二本松藩校の教授となり、再び江戸に出て昌平黌の教授となる。著書には「見山樓詩集」「艮齋文集」などがある。万延元年、病のため没す。年71。