漢詩紹介
読み方
- 庭石<田中哲菖>
- 知る君が資性 太強堅
- 也見る丰姿 自ずから儼然
- 舊是雲を呼び 邱壑に蟄み
- 今其れ樹を配して 林泉に鎭まる
- 神龍首を擧げて 池畔に蟠り
- 猛虎軀を低うして 塢邊に踞る
- 造物の工夫 人力の妙
- 默して語らず 頑仙に似たり
- にわいし<たなかてっしょう>
- しるきみがしせい はなはだきょうけん
- またみるぼうし おのずからげんぜん
- もとこれくもをよび きゅうがくにひそみ
- いまそれじゅをはいして りんせんにしずまる
- しんりゅうこうべをあげて ちはんにわだかまり
- もうこみをひくうして うへんにうずくまる
- ぞうぶつのくふう じんりょくのみょう
- もくしてかたらず がんせんににたり
字解
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- 丰 姿
- 風采 姿のよいこと
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- 儼 然
- 厳かでいかめしい
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- 呼 雲
- 盛んに活躍する
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- 邱 壑
- 丘や谷
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- 鎭
- 静まる
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- 蟠
- とぐろを巻く
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- 塢 邊
- 土手のあたり
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- 造 物
- 造物の神
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- 頑 仙
- かたくなな仙人
意解
人の知るとおり石はもともと堅く強堅な性質であり、またその風采は自然に厳かでいかめしく見える。
この石はかつて機を見ては世に出て盛んに活躍することを待ち望んでいるかのように丘や谷間に埋もれていたが、今はこの庭園に移され樹木に囲まれ、林や泉の景観の中に静かに収まっている。
その姿はちょうど神龍が首を上げて泉水のほとりにとぐろを巻いているようでもあり、猛々しい虎が身を潜めて土手のあたりにうずくまっているようでもある。
造物の神はこのような見事な石の形を作り出し、人の叡知はそれを見事に林や泉に配置する妙を見せて、ただ黙って何も語らない姿はかたくなな仙人に似ている。
備考
この詩の構造は平起こり七言律詩の形であって、下平声一先(せん)韻の堅、然、泉、邊、仙の字が使われている。
尾聯 | 頸聯 | 頷聯 | 首聯 |
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作者略伝
田中哲菖 1895-1979
本名末治郎(すえじろう)、哲菖は号。明治28年11月、石川県七尾に生まれる。七尾商業卒。鉄道省より酒造会社に入り、昭和30年取締役をもって退社。悠悠詩作に耽り、また、吟を八木哲洲に師事して多数の門下を養成、常に漢詩の興隆をはかり作詩指導に挺身する。昭和54年3月21日、哲菖会の昇段試験巡回中倒れ83歳にて没す。