漢詩紹介

読み方
- 敬天愛人<松口月城>
- 敬愛の二字 意 正純
- 想い見る南洲の 斯の精神
- 至誠一貫 聖哲の如し
- 氣宇崇高 惟達人
- 尊皇愛國 肝膽を碎き
- 完成す明治の 大維新
- 英雄遠く去って 再び出でず
- 城山の嶺上 月一輪
- けいてんあいじん<まつぐちげつじょう>
- けいあいのにじ い せいじゅん
- おもいみるなんしゅうの このせいしん
- しせいいっかん せいてつのごとし
- きうすうこう これたつじん
- そんのうあいこく かんたんをくだき
- かんせいすめいじの だいいしん
- えいゆうとおくさって ふたたびいでず
- しろやまのれいじょう つきいちりん
字解
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- 敬 愛
- 敬天愛人の略
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- 正 純
- 正しく純粋
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- 至 誠
- 最高の誠
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- 聖 哲
- 聖人と哲人 道徳と知識にきわめてすぐれた人
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- 氣 宇
- 見識 心の広さ
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- 達 人
- 道理に通じきわめた人
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- 肝 膽
- 心肝 全精神
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- 城 山
- 鹿児島市内にある山 西郷南洲の自決の地
意解
天を敬い人を愛するという「敬愛」の二文字はその意味するところはまことに正しく純粋で、私も南洲のこの精神をそのとおりであると思う。
つまり最高の誠の精神を持って貫き通す姿勢は実に聖人哲人のようであり、その見識は崇高で並外れた達人でもある。
常に皇室の繁栄と国家の興隆に心胆を砕き、明治維新という大事業を完成させたのである。
しかしその英雄もすでに遠い昔にこの世を去り、二度とはこの世に現れないであろう。いま城山の峰の上に一輪の月を望んでは在りし日の英傑を偲ぶのである。
備考
「敬天愛人」は西郷南洲が処世の信条として、日頃愛唱した言葉であり、「敬天愛人」の題をもって西郷南洲 をたたえたものである。
この詩は近体詩の平仄法にかなっていないので七言古詩であり、したがって平仄は問わない。韻は上平声十一眞(しん)韻の純、神、人、新、輪 の字が使われている。
作者略伝
松口月城 1887-1981
名は榮太(えいた)、号は月城、明治20年福岡市有田に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。 なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。
参考
西郷南洲の遺訓(抜粋)西郷隆盛は、学問の根幹もまた道徳の大綱「敬天愛人」にあるとした。『遺訓』にも次のように述べられている。「道は天地自然の道なるゆえ、講学の道は敬天愛人を目的とし、身を修するに克己=こっき=を以て終始せよ」「道は天地自然の物にして、人は之を行うものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給うゆえ、我を愛する心を以て人を愛する也」「人を相手にせず、天を相手にせよ。天を相手にして、己を尽くし人を咎=とが=めず、我が誠の足らざるを尋ぬべし」