漢詩紹介

読み方

  • 惜春詞<小野湖山>
  • 芳事茫茫 誰にか問わんと欲す
  • 青天碧海 枉げて相思う
  • 笙歌一陣 遊仙の夢
  • 杯酒三春 送別の詩
  • 辛苦花を釀して 花已に老い
  • 生成雨に在り 雨應に知るべし
  • 年來自ら覺ゆ 榮枯の理
  • 閲して今朝に到って 又却って悲しむ
  • せきしゅんし<おのこざん>
  • ほうじぼうぼう たれにかとわんとほっす
  • せいてんへきかい まげてあいおもう
  • しょうかいちじん ゆうせんのゆめ
  • はいしゅさんしゅん そうべつのうた
  • しんくはなをかもして はなすでにおい
  • せいせいあめにあり あめまさにしるべし
  • ねんらいみずからおぼゆ えいこのり
  • けみしてこんちょうにいたって またかえってかなしむ

字解

  • 芳 事
    春の楽しいこと 「芳」はかぐわしい
  •  枉
    まげて 無理にでも
  •  相
    ここでは(ある対象を指し)それを
  • 遊 仙
    仙境に遊ぶ
  • 三 春
    孟春・仲春・季春のこと 春三ヵ月
  • 釀 花
    花を作る 花を咲かす
  •  應
    「まさニ……ベシ」と読む再読文字 きっと……にちがいない
  •  閲
    確かめる 改めて見る

意解

 (花咲き、鳥歌う行楽の春もいつしか過ぎ去ろうとしている)そんな春の楽しさははるか遠くに去って、どこに行ったのか、誰に問うたらよいものか知るすべもない。(今初夏を迎えて)空は限りなく青く、海は碧く広がっているのを眺めるにつけ、ことさらに春の楽しさを思い出すのである。
 (若いときは)ひとしきり笙の笛に合わせ歌って、仙境に遊ぶような夢見ごこちを味わったり、盃の酒を傾けながら春を送る詩を賦したりした。
 (苦辛して花を咲かせても、花はやがて萎(しお)れていくが、花を育てたのが雨であるならば、雨こそがきっと花の悲しい心を知っているに違いない。
 (数年来、自分では栄枯盛衰の道理はよく知っているが、(いよいよ春が逝くということを)改めて感じて、今朝になってむしろいっそう哀惜の情に堪えられないのである。

備考

 年をとって青春をなつかしみ、栄枯盛衰など人生の感慨を逝く春を惜しみながら述べたものである。
 (この詩の構造は仄起こり七言律詩の形であって、上平声四支(し)韻の誰、思、詩、知、悲の字が使われている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

小野湖山 1814-1910

 江戸時代後期、明治の漢詩人。近江(滋賀県)東浅井郡田根村で医師の横山玄篤(げんとく)の長男として生まれる。医学を学び、梁川星巖の玉池(ぎょくち)吟社に入って詩を学んだ。本姓は横山、名は長愿(ながよし)、また巻(おさむ)ともいう。湖山は号。勤王の志士と交わり明治維新後は一時新政府に仕えたこともある。大阪で優遊吟社をおこし子弟を教えた。のち東京に移住し明治43年3月病のため没す。年97。著書に「湖山楼詩鈔」「湖山近稿」「湖山消閑集」などがある。