漢詩紹介

読み方
- 平和の鐘 <小原 六六庵>
- 吁嗟鐘が鳴る 平和の鐘が
- 復興日本の 其の跫を聞け
- 当年の原爆 那の辺にか落つ
- 悪夢抛ち来る 争戦の蹤
- 髑髏蕭蕭として 鬼火舂き
- 累累たる瓦礫 我が胸を衝く
- 復興の広島 又長崎
- 吁嗟鐘が鳴る 平和の鐘が
- へいわのかね <おはら ろくろくあん>
- ああかねがなる へいわのかねが
- ふっこうにっぽんの そのあしおとをきけ
- とうねんのげんばく いずれのへんにかおつ
- あくむなげうちきたる たたかいのあと
- どくろしょうしょうとして おにびうすづき
- るいるいたるがれき わがむねをつく
- ふっこうのひろしま またながさき
- ああかねがなる へいわのかねが
語句の意味
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- 平和鐘
- 昭和39年(1964)広島の悲願に立ってすべての核兵器と戦争のないまことの平和な世界を達成することをめざしてつくられた
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- 吁 嗟
- 強く感動したり驚いたりしたときに発する語
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- 原 爆
- 第二次世界大戦の末期1945年8月6日に広島市、8月9日に長崎市に投下された原子爆彈
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- 争 戦
- あらそいたたかうこと いくさ 戦争
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- 髑 髏
- 風雨にさらされて白っぽくなった頭骨 しゃれこうべ
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- 蕭 蕭
- もの寂しく感じられるさま
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- 鬼 火
- 雨の降る暗夜などに墓地や湿地の空中を漂う青い火 ここでは人の死骸が放つ光
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- 舂
- 夕日が山の端に入ろうとする ここでは消えようとして消えないさま
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- 瓦 礫
- かわらと小石 破壊された建造物の破片など
詩の意味
ああ、鐘が鳴っている。世界のすみずみまで響きわたる平和の鐘の音が聞こえてくる。終戦後の日本が復興していくそのさま、その足音を聞いてほしい。
投下された原爆は、どのあたりに落とされたのだろう。一瞬にして十数万人の命を奪った原爆は、この世のものとは思えないほどの悲惨な悪夢のような光景をもたらした。戦争とはまことにむごいものだ。
風雨にさらされて白っぽくなった頭骨がもの寂しく散乱し、亡くなった人たちから立ちのぼった青い火が消え去らずに空中を漂っている。破壊された建造物の破片が積み重なって続いており、私の胸を揺さぶって心に衝撃を与える。
被災した広島と長崎がようやく復興の姿を見せ始めている。ああ、鐘が鳴っている。この平和の鐘の音が世界のすみずみまで響きわたる。(平和の大切さが全人類のひとりひとりの心に届くことを願っている)。
出典
「六六庵吟詠詩集」
詩の形
この詩は近体詩の平仄法にかなっていないので七言古詩の形であり、したがって平仄は問わない。韻は上平声二冬(とう)韻の鐘、跫、蹤、胸、鐘の字が使われている。
作者
小原六六庵 1901~1975
明治から昭和の書道家・漢詩家・歌人
名は清次郎、号は方外、六六葊(あん)、六六庵。65歳以降は「六六庵」のみを使用した。明治34年4月16日、愛媛県松山市で生まれた。書道は中村翠涛の門に入って学び、昭和13年書道教授となり六六庵を創立、独特の書風を発表してきた。吟詠は昭和21年に愛国運動と吟詠芸術論を展開して六六庵吟詠会を創立、漢詩家としては、六六庵吟社主宰、黒潮吟社、癸丑(きちゅう)吟社、山陽吟社各同人として活躍し、60年の作詩歴の中で作詩の数は5万首以上に上る。短歌の方も歌歴が長く、「にぎたづ」誌同人として、同誌創刊以来二十余年間独自の歌風を発表した。著書に「六六庵吟詠詩集」「六六庵詩書」4巻、「にぎたづ」合同歌集がある。昭和50年10月15日逝去。享年75。