漢詩紹介

CD③収録 吟者:岸本快伸・中谷淞苑
2015年6月掲載
読み方
- 母(2-1)<松口月城>
- ふるさとの 栗もくるみも うれたれば
- おまえを思うと 母のふみくる
- 呼びたくも 呼ぶことならぬ ガラス戸に
- 息吹きかけて 母と書くなり
- 非行の少年 囹圄に泣く
- 無限の悔恨 思い窮まらんと欲す
- 噫吾過てり 吾過てり
- 終夜眠らず 獨房の中
- はは<まつぐちげつじょう>
- ふるさとの くりもくるみも うれたれば
- おまえをおもうと ははのふみくる
- よびたくも よぶことならぬ がらすどに
- いきふきかけて ははとかくなり
- ひこうのしょうねん れいごになく
- むげんのかいこん おもいきわまらんとほっす
- ああわれあやまてり われあやまてり
- しゅうやねむらず どくぼうのうち
字解
-
- 囹 圄
- 獄舎
-
- 矣
- 断定の意を表す助字 置き字であって読まない
意解
(和歌)ふるさとの……ふるさとの栗もくるみも熟れたのでおまえのことを案じていると母から手紙が届いた。
(和歌)呼びたくも……お母さんと呼びたくても独房ゆえに呼ぶこともままならない。せめてガラス戸に息吹きかけては母と書いて忍んでいます。
非行少年が獄舎にあって母の愛がいかに深く大きいものであったかを知り、涙にむせび、又限りない悔恨の思いに胸も張りさけるばかりである。
ああ自分は過っていた、間違っていたと、夜通し独房で眠られない。
備考
この詩は、非行少年が獄中で作った三首の歌を作者(松口月城)が読み、感激して作ったものである。
詩の構造は七言古詩の形であって、上平声一東(とう)韻の窮、中、瞳の字と上平声三江(こう)韻の窓の字が通韻して使われている。
作者略伝
松口月城 1887-1981
名は榮太(えいた)、号は月城。明治20年福岡県筑紫郡那珂川町今光に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し、18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。
なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。