漢詩紹介

読み方
- 母(2-2)<松口月城>
- 頭を上げては母を思い 枕に伏しても母
- 慈顔佛の如く 我が瞳に浮かぶ
- かくまでも なげきたまいぬ 吾ゆえに
- 日毎ふえゆく 母のしらがみ
- 海嶽の恩愛 今始めて識る
- 一輪の寒月 獄窓を照らす
- はは<まつぐちげつじょう>
- こうべをあげてはははをおもい まくらにふしてもはは
- じがんほとけのごとく わがひとみにうかぶ
- かくまでも なげきたまいぬ われゆえに
- ひごとふえゆく ははのしらがみ
- かいがくのおんあい いまはじめてしる
- いちりんのかんげつ ごくそうをてらす
字解
-
- 慈 顔
- 慈愛にみちた顔
-
- 海嶽恩愛
- 海より深く山よりも高い親の恩
意解
頭を上げては母のことを思い、枕に伏しても思うことは母のことばかりで、母の慈顔はまさに仏様のように少年の瞳に浮かび出てくる。
(和歌)かくまでも……母はこれほどまでに悲しみにくれておられる。私の罪のために母の白髪は日毎に増えていっていることだろう。
少年は母の恩が海よりも深く山よりも高く大きいものであることを、今初めて識った。折からさむざむとした一輪の月が、この獄舎の窓辺を清らかに照らしている。
備考
この詩は、非行少年が獄中で作った三首の歌を作者(松口月城)が読み、感激して作ったものである。
詩の構造は七言古詩の形であって、上平声一東(とう)韻の窮、中、瞳の字と上平声三江(こう)韻の窓の字が通韻して使われている。
作者略伝
松口月城 1887-1981
名は榮太(えいた)、号は月城。明治20年福岡県筑紫郡那珂川町今光に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し、18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。
なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。