漢詩紹介

読み方
- 明智左馬介琵琶湖を渡る(2-1)<釋五岳>
- 太湖を横截す 一鞭の風
- 雲濤滃渤 馬龍の如し
- 萬兵瞠若 空しく後えに在り
- 空明唯望む 飛電の蹤
- 君見ずや本能寺裏 鼠馬を齧む
- 凶兆早に見る 惡夢の中
- 天王山下 天運を爭い
- 猴面の豎子 終に功を成す
- あけちさまのすけびわこをわたる<しゃくごがく>
- たいこをおうせつす いちべんのかぜ
- うんとうおうぼつ うまりゅうのごとし
- ばんぺいどうじゃく むなしくしりえにあり
- くうめいただのぞむ ひでんのあと
- きみみずやほんのうじり ねずみうまをかむ
- きょうちょうつとにみる あくむのうち
- てんのうさんか てんうんをあらそい
- こうめんのじゅし ついにこうをなす
字解
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- 明智左馬介
- 光秀の家老で福知山城主 光秀の娘婿で明智光春と名のる 本能寺の変で先鋒をつとめた
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- 横 截
- 横切る
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- 一 鞭
- 馬に鞭をあてる
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- 滃 渤
- 霧の沸き出るかたち
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- 瞠 若
- 驚いて目を見張る 「若」は助字
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- 空 明
- 月が水に映って清く明るい
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- 鼠齧馬
- 鼠が馬の尾を噛んだ夢 家来の光秀が主君の信長を殺したこと
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- 猴面豎子
- 猿面冠者 「猴面」は猿のような顔 「豎子」は小者
意解
愛馬に鞭をあてて、風を切り琵琶湖を横切れば雲も濤(なみ)も一時に沸きたって、馬はさながら龍のように勇ましく躍るようである。
敵の大軍は驚いて後退し目を見合わすばかりで、澄み渡った空に稲妻のあとを望み見るようであった。
本能寺で信長が宿泊した夜、鼠が馬の尾を噛み切った夢をみた、という者があったということを知っているでしょう。これは信長が討たれるという不吉の前兆の現れであったのであろう。
やがて山崎天王山の天下分け目の合戦で、光秀はもろくも敗れ、ついに猿面冠者の秀吉に名を成さしめる結果となった。
備考
この詩の題は「題明智左馬介渡琵琶湖図」であるが本会では簡略にした。「太閤記」に名高い明智左馬介琵琶湖乗り切りの物語を詠じたものである。
詩の構造は古詩の形であって、韻は
上平声一東(とう)韻の風、中、功、忠
上平声二冬(とう)韻の龍、蹤、容、松
の字が通韻して使われている。
作者略伝
釋 五岳 1811-1893
大分県、豊後日田の願正寺の住職。姓は平野、名は聞慧、号は古竹、五岳。廣瀬淡窓門下の秀才で詩・書・画に卓絶する。明治26年没。年83。