漢詩紹介

読み方
- 明智左馬介琵琶湖を渡る(2-2)<釋五岳>
- 桀狗堯に吠ゆ 豈已むを得んや
- 男子重んずる所 唯是忠
- 忍びず崑玉の 一火に付するを
- 之を敵營に輸す 何ぞ雍容
- 嗚呼君が心は 琶湖の濶きよりも濶し
- 清風留まって在り 唐崎の松
- あけちさまのすけびわこをわたる<しゃくごがく>
- けっくぎょうにほゆ あにやむをえんや
- だんしおもんずるところ ただこれちゅう
- しのびずこんぎょくの いっかにふするを
- これをてきえいにいたす なんぞようよう
- ああきみがこころは はこのひろきよりもひろし
- せいふうとどまってあり からさきのまつ
字解
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- 桀狗吠堯
- 暴君桀王の犬が聖王堯帝に吠えかかる 仕える主人に忠義をつくす
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- 崑 玉
- 中国崑崙山から出る美玉で宝もの ここでは国行の刀・吉光の脇差・虚堂の墨蹟・茶の湯の釜・名物の茶入、その他
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- 付一火
- 戦火のために焼失してしまう
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- 輸
- 渡す
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- 雍 容
- おだやかなさま おおらかなさま
意解
暴君桀王の犬が聖王堯帝に吠えかかるように、家臣左馬介が逆賊の主君に忠義をつくすのは、已むを得ないことである。男子が重んずるものはただ忠義のみである。
しかも(秀吉方の武将堀秀政の大軍に坂本城を取り囲まれ運命いよいよ窮まるや)城中にある宝物を戦火のために焼失するに忍びず、これらをすべて敵軍に渡し自決したが、何とおおらかな心がけではないか。
ああ明智左馬介光春よ、君の心の濶いことは、この琵琶湖の濶さに勝り、君の風格は唐崎の松に吹く風の清らかさと共に永く伝えられるであろう。
備考
この詩の題は「題明智左馬介渡琵琶湖図」であるが本会では簡略にした。「太閤記」に名高い明智左馬介琵琶湖乗り切りの物語を詠じたものである。
詩の構造は古詩の形であって、韻は
上平声一東(とう)韻の風、中、功、忠
上平声二冬(とう)韻の龍、蹤、容、松
の字が通韻して使われている。
作者略伝
釋 五岳 1811-1893
大分県、豊後日田の願正寺の住職。姓は平野、名は聞慧、号は古竹、五岳。廣瀬淡窓門下の秀才で詩・書・画に卓絶する。明治26年没。年83。