漢詩紹介

CD②収録 吟者:中谷淞苑
2015年5月掲載
読み方
- 荒城月夜の曲を聞く<水野豊洲>
- 榮枯盛衰は 一場の夢
- 相思恩讐 悉く塵煙
- 星移り物換わるは 刹那の事
- 歳月悤悤 逝きて還らず
- 史編讀み續く 興亡の跡
- 弔涙幾回か 几前に灑ぐ
- 今夜荒城 月夜の曲
- 哀愁切切として 當年を憶う
- こうじょうげつやのきょくをきく<みずのほうしゅう>
- えいこせいすいは いちじょうのゆめ
- そうしおんしゅう ことごとくじんえん
- ほしうつりものかわるは せつなのこと
- さいげつそうそう ゆきてかえらず
- しへんよみつづく こうぼうのあと
- ちょうるいいくかいか きぜんにそそぐ
- こんやこうじょう げつやのきょく
- あいしゅうせつせつとして とうねんをおもう
字解
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- 一場夢
- 長い歴史の上から思うとほんの瞬間の一夜の夢のようである
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- 相思恩讐
- 互いに敵となり味方となって戦う 「恩讐」は敵味方
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- 星 移
- 歳月を経る
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- 刹 那
- きわめて短い時間 つかの間
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- 悤 悤
- あわただしい いそがしい
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- 史 編
- 歴史のつづり
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- 弔 涙
- あわれみ出る涙
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- 几
- 机
意解
栄枯盛衰はほんの瞬間の一夜の夢のようにはかないもので、敵味方に分かれて戦った事なども今はすべて塵や煙のように消え去ってしまった。
長い歳月に起こったそれらのことは、瞬間の出来事であり、歳月はあわただしく過ぎ去って還ってこない。
過去の興亡の跡を史書で読み続けているうちに往事が偲ばれ、幾たびとなく涙が机上に落ちるのである。
そして今宵、この「荒城の月」の名曲を聞きながら、ひとしお迫る哀愁に、ことさら当時の事を思いうかべるのである。
備考
この詩は土井晩翠作詞 滝廉太郎作曲の名曲「荒城の月」を聞いて、栄枯盛衰のはかなさを詠じたものである。
詩の構造は七言古詩の形であって、
下平声一(せん)韻の煙、前、年
上平声十五刪(さん)韻の還
の字が通韻して使われている。
作者略伝
水野豊洲 1889-1958
明治22年に生まれる。名は嘉蔵、豊洲は号。司法官僚として活躍するかたわら、漢詩に親しみ退官後は作詩に耽った。多くの作品を残しているが公表するのを好まなかった。漢詩の翻訳もやり吟詠振興に貢献した。昭和33年没。年70。
参考
荒城の月
1、春高楼の花の宴めぐる盃かげさして
千代の松が枝わけいでし昔の光いまいずこ
2、秋陣営の霜の色鳴きゆく雁の数見せて
植うるつるぎに照りそいし昔の光いまいずこ
3、今荒城のよわの月変らぬ光誰が為ぞ
垣に残るはただかつら松に歌うはただあらし
4、天上影は変らねど栄枯は移る世の姿
写さんとてか今もなおああ荒城のよわの月