漢詩紹介

読み方
- 幻瀑澗<廣瀬旭莊>
- 岑寂として 群動息み
- 夜窗 已に殘更なり
- 驟かに聞く 淙然として起こるを
- 初めは 暴雨の 生ずるに似たり
- 少焉あって 益すます轟獦
- 是 飛流の 聲に似たり
- 窗を開けば 見る所無く
- 一片の 寒月明るし
- 數十株の 大樹
- 掀舞して 走行せんと欲す
- 乃ち知る 向來の響き
- 風吹きて 木葉鳴るを
- げんばくかん<ひろせきょくそう>
- しんせきとして ぐんどうやみ
- やそう すでにざんこうなり
- にわかにきく そうぜんとしておこるを
- はじめは ぼううの しょうずるににたり
- しばらくあって ますますごうかつ
- これ ひりゅうの こえににたり
- まどをひらけば みるところなく
- いっぺんの かんげつあかるし
- すうじっしゅの たいじゅ
- きんぶして そうこうせんとほっす
- すなわちしる きょうらいのひびき
- かぜふきて もくようなるを
字解
-
- 幻瀑澗
- 滝のような音のする幻の谷川
-
- 岑 寂
- 静寂
-
- 殘 更
- 深更 夜更け
-
- 暴 雨
- にわか雨
-
- 轟 獦
- とどろく大音の形容
-
- 飛 流
- 滝
-
- 向 來
- 従来 今まで
意解
あらゆるものは静かに眠り、夜の窓辺は既に夜更けとなった。すると、突然水の音が聞こえ、はじめはにわか雨のようであったが、しばらくするとその音は滝の水が落ちるような響きに変わった。
窓を開けてみると、なにも目につくものはなく、ただ寒々とした月が皓々と照っているだけだ。しかし、よく見ると数十本の大樹が、舞い上がって今にも走りだしそうであった。そこで、私は初めて今までの響きは、風が吹いて木の葉が鳴る音であったと知った。
備考
この詩の構造は五言古詩の形であって、下平声八庚(こう)韻の更、生、聲、明、行、鳴の字が使われている。
作者略伝
廣瀬旭莊 1807-1863
廣瀬淡窓(1782ー1856)、旭莊の兄弟は豊後(大分県)日田の豪商の家に生まれた。旭莊は長兄の淡窓より25歳年下の末弟。
旭莊17歳の時、淡窓の養嗣となり、咸宜園(かんぎえん)の塾政を執ったが代官の教育干渉のため、郷里を去った。兄淡窓は終始九州日田で塾生の教育に当たったが、旭莊は生涯の大半を江戸、大阪で過ごし、天下を周遊した詩人である。