漢詩紹介

読み方
- 晩秋述懷<姫大伴氏>
- 節候蕭條 歳將に闌けなんとし
- 閨門靜閑 秋日寒し
- 雲天遠雁 聲宜しく聽くべし
- 檐樹晩蝉 引殫きんと欲す
- 菊潭露を帶びて 餘花冷やかに
- 荷浦霜を含みて 舊盞殘のう
- 寂寞獨り傷む 四運促きを
- 紛紛たる落葉 看るに勝えず
- ばんしゅうじゅっかい<ひめおおともうじ>
- せっこうしょうじょう としまさにたけなんとし
- けいもんせいかん しゅうじつさむし
- うんてんえんがん こえよろしくきくべし
- えんじゅばんせん しらべつきんとほっす
- きくたんつゆをおびて よかひややかに
- かほしもをふくみて きゅうさんそこのう
- せきばくひとりいたむ しうんはやきを
- ふんぷんたるらくよう みるにたえず
字解
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- 晩秋述懷
- 秋の終りに心に思うこと
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- 節 候
- 時節 気候
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- 蕭 條
- ものさびしい
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- 歳將闌
- 今年もふけゆこうとしている
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- 閨 門
- 婦人の部屋の戸
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- 檐 樹
- 軒端の樹木
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- 菊 潭
- 菊花の香る池辺
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- 荷 浦
- 蓮の生じた水辺
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- 四 運
- 春夏秋冬のうつりかわり
意解
時節はものさびしく今年もふけゆこうとしております。寝室の戸はひっそりとしずかに、秋の日がさむざむと照らしています。
雲のかなたを見ますと空を渡る雁の声も当然に聞かれ、軒端の樹に鳴く晩蝉の声も消えゆくばかりであります。
池辺の菊は露をおびて咲き残った花も冷たそうであり、水辺の蓮は露を含んで,枯れ葉は古ぼけた盞(さかずき)が傷(そこな)われたように哀れに寂しい姿であります。
こうして四季がはやくもおいかけるように移ってゆくのをわびしく思うこころから、落ち葉の紛紛と乱れ飛ぶのはとても見るに堪えられません。
備考
この詩の構造は七言古詩の形であって、上平声十四寒(かん)韻の闌、寒、殫、殘、看の字が使われている。
作者略伝
姫大伴氏
嵯峨天皇の宮女。生没不詳。詩は平安朝初期の作品。文華秀麗集にこの一首のみ記載される。