漢詩紹介

読み方
- 自畫に題す<江馬細香>
- 孤房筆を弄して 歳年移る
- 一たび生涯を誤る 何ぞ追う可けんや
- 聊か喜ぶ淸貞 渠と似たるを
- 幽蘭痩竹 寒姿を寫す
- じがにだいす<えまさいこう>
- こぼうふでをろうして さいねんうつる
- ひとたびしょうがいをあやまる なんぞおうべけんや
- いささかよろこぶせいてい かれとにたるを
- ゆうらんそうちく かんしをうつす
字解
-
- 誤生涯
- ここでは賴山陽との結婚ならざるをいう
-
- 淸 貞
- 心清らかに志を守るの意
-
- 渠
- ここでは蘭と竹をさす
-
- 寒 姿
- 冷たさを感じさせるまでに純粋な姿
意解
孤独な生活の中にあって絵筆を握り幾年かの歳月が過ぎ去ってしまいました。生涯にひと度、普通の婦人とちがう道をえらんでしまったからには、どうして取り返しがつきましょうか。
私がわずかに喜びとするのは、ひとすじに志を守り通してきたことが、ちょうど蘭竹の清らかさに似ていること。
ですからひっそりした蘭や痩せた竹の冷たいまでに純粋な姿を好んで詩や画に描くのです。
備考
この詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、上平声四支(し)韻の移、追、姿の字が使われている。転句は挟声法を用いてある。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
---|---|---|---|
作者略伝
江馬細香 1787-1861
江戸後期の女流漢詩人、画家。美濃大垣(岐阜)の人。二代江馬春齢の長女。名は多保(たほ)または<烏のよつてんの代わり に衣>(たお)、号は湘夢(しょうむ)、字は細香。文化10年(1813)遊歴中の賴山陽と出会い、以後師事して詩文を学ぶ。画法は山陽の友人 浦上春琴(うらかみしゅんきん)に入門。明治4年(1871)姪孫(てっそん=兄弟の孫)らの手で漢詩集『湘夢遺稿』が刊行された。