漢詩紹介
読み方
- 牡丹胡蝶の圖に題す<梁川紅蘭>
- 寓言 世俗を驚かす
- 周也 果して何人ぞ
- 怪しむ爾が 胡蝶と爲り
- 偏に富貴の 春を尋ぬるを
- ぼたんこちょうのずにだいす<やながわこうらん>
- ぐうげん せぞくをおどろかす
- しゅうや はたしてなんびとぞ
- あやしむなんじが こちょうとなり
- ひとえにふうきの はるをたずぬるを
字解
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- 寓 言
- ことにかこつけていう言葉 つくりばなし
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- 周 也
- 荘周のこと(孟子と同時代の思想家) 也は呼びかけの語気を示す
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- 爲胡蝶
- 荘子の斉物論に「荘周が夢に胡蝶となり 自ら楽しく飛びまわったが忽ち覚めてもとの荘周となるや 周が夢に蝶 となったのか 蝶が周になったのかわからなくなった」という話を踏まえる
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- 富貴春
- 北宋の儒者周濂溪(しゅうれんけい)の愛蓮の説に牡丹は花の富貴なるものなりとある(周濂溪は周敦頤=しゅうと んい=ともいう)
意解
例のつくりばなしで世の中の人たちを驚かした荘周とは一体どのような人物であったのでしょうか。あなたは、夢に胡蝶となって花から花へ飛びまわったといいますが、花にことかいて殊更に(牡丹という)富貴の花の春色を尋ね回るとは、平生の持論とも似合わない、いぶかしいことですねぇと。
世人が富貴の門にはしるのを風刺したものである。
備考
この詩の構造は平起こり五言絶句の形であって、上平声十一真(しん)の韻の人、春の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
梁川紅蘭 1804-1879
幕末維新の女流漢詩人。美濃(岐阜)の人。名は景、字は道華(どうか)。再従兄(またいとこ)の梁川星巌に詩作の指導 を受け、文政3年(1820)結婚。星巌に従って各地を遊歴し、詩作の生活を送る。安政の大獄のとき、紅蘭は捕らえられたがのち出獄し、晩年 は京都で私塾を開いて子女に教育を施し、星巌の弟子たちに見守られながら暮らした。詩集に『紅蘭小集』がある。