漢詩紹介

読み方

  • 春宵<山本緗桃>
  • 海棠梢畔 月徘徊
  • 水漏聲疎にして 香始めて灰す
  • 西廂を讀み罷んで 人未だ睡らず
  • 簾を捲けば花影 牀に上りて來る
  • しゅんしょう<やまもとしょうとう>
  • かいどうしょうはん つきはいかい
  • すいろうこえそにして こうはじめてかいす
  • せいそうをよみやんで ひといまだねむらず
  • れんをまけばかえい しょうにのぼりてきたる

字解

  • 海 棠
    バラ科の落葉小高木 中国原産 4月に淡紅色の花を開く
  • 梢 畔
    梢の畔(ほとり) 転じて枝さき
  • 水 漏
    水時計
  • 西 廂
    西廂記のこと 中国元代の王実甫(おうじつほ)作 張君瑞(ちょうくんずい)と崔鶯鶯(さいおうおう)との恋愛 物語
  • 寝床

意解

 海棠の枝さきに月が徘徊し、水時計の音も間遠に聞こえて、香ももえつきてしまった(夜も更けた)。西廂記を読んでいたがそれも読み終わったものの、何故か眠れず、起って簾(すだれ)を捲きあげると、花の影が寝床の上にのぼってくるのであった。まるで絵巻物に画かれ た深窓の佳人の姿でも見るようである。

備考

 この詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、上平声十灰(かい)韻の徊、灰、來の字が使われている。

結句 転句 承句 起句

作者略伝

山本緗桃 生没年不詳

 名は民(たみ)。山本北山(ほくざん=1752-1812)の妻。桃は江戸の人であるが、その事跡は詳らかではない。五山堂詩話(ござんどうしわ)によれば花鳥の画をよくしたらしい。