漢詩紹介

読み方
- 小梅村矚目<大田蘭香>
- 村を繞って野水 碧粼粼たり
- 垂柳陰深くして 點塵を絶つ
- 穿破す菜花の 黄世界
- 一群の紅袖 春を趁うの人
- こうめむらしょくもく<おおたらんこう>
- むらをめぐってやすい みどりりんりんたり
- すいりゅうかげふかくして てんじんをたつ
- せんぱすさいかの こうせかい
- いちぐんのこうしゅう はるをおうのひと
字解
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- 小梅村
- 隅田川のほとり 現在の墨田区向島三囲(むこうじまみめぐり)神社付近の地
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- 矚 目
- じっと目をとめて見る (即興的に目にふれた景色を詩にすること)
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- 粼 粼
- 水が石の間を流れるさま
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- 點 塵
- すこしのちり
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- 穿 破
- うがちやぶる
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- 紅 袖
- 赤いそで 転じて女性
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- 趁春人
- 過ぎゆく春を惜しむように楽しむ人
意解
小梅村で見た春景色を詠じた詩。
小梅村をめぐる小川の水は川底の石も見えるほど、碧の色をたたえて美しく、石の間をさらさらと流れている。しだれ柳が茂って陰の深い処は一点の塵も無い。黄金を敷きつめたような菜の花畑の間を紅く美しい衣裳をつけた若い女性たちが通り抜けていく。
つかの間の春の景色を楽しむように追いかける人々である。
備考
この詩の構造は平起こり七言絶句の形であって、上平声十一真(しん)韻の粼、塵、人の字が使われている。
結句 | 転句 | 承句 | 起句 |
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作者略伝
大田蘭香 1798-1856
名は晉(しん)、字は景昭(けいしょう)、加賀大聖寺(だいしょうじ)の人。加賀侯の藩儒大田錦城(きんじょう)の娘として、寛政10年5月23日江戸で生まれた。幼少より漢学を学び詩をよくし、書画にも巧みであった。一度は結婚したが、のち離別し尼となって錦城に従い金沢に移り、文雅の生活に明け暮れた。安政3年4月5日病没、年59。この詩は作者17歳の時の作。著書には「蘭香詩集」がある。