漢詩紹介

読み方
- 野口英世(6-4)<松口月城>
- 大正四年 秋九月
- 横濱埠頭に 英姿を見る
- 朝野歡呼して 醫聖を迎う
- 恩賜の旌賞 光陸離たり
- 母を奉じて孝養 到らざる無し
- 妓女傍看して 至情に泣く
- 偉人の陰に 賢母有り
- 觀音堂前 感謝の聲
- のぐちえいせい<まつぐちげつじょう>
- たいしょうよねん あきくがつ
- よこはまふとうに えいしをみる
- ちょうやかんこして いせいをむこう
- おんしのせいしょう ひかりりくりたり
- ははをほうじてこうよう いたらざるなし
- ぎじょぼうかんして しじょうになく
- いじんのかげに けんぼあり
- かんのんどうぜん かんしゃのこえ
字解
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- 朝 野
- 官吏と民間人 国民みんな
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- 旌 賞
- 表彰の品 「旌」は旗 ここでは勲四等旭日小綬章
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- 陸 離
- まばゆく美しい
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- 妓 女
- 接待役の女性
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- 至 情
- 真心 「至」はこの上ない
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- 觀音堂
- 福島県若松にある田中観音堂
意解
大正4年秋9月、英世は祖国に帰り、横浜港埠頭に英姿を現わした。
国民はこぞって歓呼の声をもって医聖を歓迎し、天皇から賜った勲章はまばゆいほどの美しさであった。
大阪箕面(みのお)公園での歓迎会では母を伴って孝養を尽くし、そのありさまは行き届かないところは無く、接待役の女性も傍らから見ていて、あまりの孝行心に涙を流したほどであった。
偉人の陰には賢母がいたという言葉があるが、まさにその通りで、観音堂前は多くの人々で埋まり、この偉大な母子に対して喜びと感謝の声が満ち溢れた。
備考
この詩の構造は七言古詩の形であって、韻は次の通りである。
第2・4句 下平声八庚(こう)韻の平、生
第6・8句 上平声四支(し)韻の資、絲
第10・12句 上平声十一眞(しん)韻の諄、人
第13~16句 下平声十一尤(ゆう)韻の休、洲、秋
第18・20句 去声九泰(たい)韻の會、大
第22・24句 下平声八庚(こう)韻の聲、榮
第26・28句 上平声四支(し)韻の姿、離
第30・32句 下平声八庚(こう)韻の情、聲
第34・36句 入声九屑(せつ)韻の烈、傑
第37~40句 下平声八庚(こう)韻の驚、征、牲
第42・44句 上平声十一眞(しん)韻の濱、人
の字が使われている。
作者略伝
松口月城 1887-1981
名は榮太(えいた)、号は月城。明治20年福岡市有田に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し、18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。