漢詩紹介
読み方
- 野口英世(6-5)<松口月城>
- 再び故國を去って 彼の地に向こう
- 研究の精神 愈烈烈
- 元猪苗代の 一貧兒
- 今是 世界の 大醫傑
- 毒霧瘴烟 心那ぞ驚かん
- 更に南亞に向かって 遠征を企つ
- 黄熱病原 遂に發見
- 君之に感染して 犧牲と爲る
- のぐちえいせい<まつぐちげつじょう>
- ふたたびここくをさって かのちにむこう
- けんきゅうのせいしん いよいよれつれつ
- もといなわしろの いちひんじ
- いまこれ せかいの だいいけつ
- どくむしょうえん こころなんぞおどろかん
- さらになんあにむかって えんせいをくわだつ
- おうねつびょうげん ついにはっけん
- きみこれにかんせんして ぎせいとなる
字解
-
- 瘴 烟
- 有害なものを含んだもや 人体によくない環境
-
- 南 亞
- 南アフリカ
意解
再び故国を去って外地に赴き、研究心はますます強固になっていった。
この英世も元は猪苗代湖畔に育った一人の貧しい少年であったのに、今は世界の大医学者となった。
毒気を含んだ霧やもやの立ち込める劣悪な土地でも恐れること無く、さらに南アフリカに遠征することを計画した。
そこでついに黄熱病の病原体を発見したが、彼自身が感染してその犠牲となった。
備考
この詩の構造は七言古詩の形であって、韻は次の通りである。
第2・4句 下平声八庚(こう)韻の平、生
第6・8句 上平声四支(し)韻の資、絲
第10・12句 上平声十一眞(しん)韻の諄、人
第13~16句 下平声十一尤(ゆう)韻の休、洲、秋
第18・20句 去声九泰(たい)韻の會、大
第22・24句 下平声八庚(こう)韻の聲、榮
第26・28句 上平声四支(し)韻の姿、離
第30・32句 下平声八庚(こう)韻の情、聲
第34・36句 入声九屑(せつ)韻の烈、傑
第37~40句 下平声八庚(こう)韻の驚、征、牲
第42・44句 上平声十一眞(しん)韻の濱、人
の字が使われている。
作者略伝
松口月城 1887-1981
名は榮太(えいた)、号は月城。明治20年福岡市有田に生まれる。熊本医学専門学校を卒業し、18歳にして医師となり世人を驚かせた秀才である。医業のかたわら漢詩を宮崎来城に学び、詩、書画、共に巧みであった。なお本会顧問を永年つとめられる。昭和56年7月16日没す。年95。