漢詩紹介

読み方
- 攝津峽吟行(4-1)<宮崎東明>
- 盟朋約を趁うて 溪村に會し
- 奇勝を探らんと欲して 吟魂を動かす
- 吟屐直ちに向こう 攝津峽
- 滿山新樹 綠陰繁し
- 曲曲水に傍うて 徑路通じ
- 處處の鵑花 幽趣多し
- 深溪落落 奇巖堆く
- 飛泉千尺 白布を披く
- せっつきょうぎんこう<みやざきとうめい>
- めいほうやくをおうて けいそんにかいし
- きしょうをさぐらんとほっして ぎんこんをうごかす
- ぎんげきただちにむこう せっつきょう
- まんざんしんじゅ りょくいんしげし
- きょくきょくみずにそうて けいろつうじ
- しょしょのけんか ゆうしゅおおし
- しんけいらくらく きがんうずたかく
- ひせんせんじゃく はくふをひらく
字解
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- 盟 朋
- 気の合った親しい友人
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- 趁 約
- 約束に従う 約束通り
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- 吟 屐
- 「屐」は下駄(げた) ここでは詩人たちの足
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- 鵑 花
- 山つつじ
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- 落 落
- まばらな ところどころ
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- 飛 泉
- 滝 瀑布
意解
親しい友達同士で約束して谷あいの村に集まり、良い景色を見つけ、詩を作ったり吟じたりしようと興味をわかせた。
足元も軽やかに摂津峡に向かうと、山中の新樹は緑の色が濃く木陰も爽やかだ。
曲がりくねった谷川に沿って路が続き、あちこちに見える山つつじのおくゆかしい趣もまた格別だ。
深い谷にはところどころ形の良い岩が堆(うずたか)く立ち並び、流れ落ちる滝は高く白い布をひろげたように見える。
備考
この詩は高槻市の摂津耶馬渓といわれる景勝を朋友と共に吟行をしたときの作である。
詩の構造は七言古詩の形であって韻は次の通りである。
第1~4句 上平声十三元(げん)韻の村、魂、繁
第5~8句 去声七遇(ぐう)韻の路、趣、布
第9~12句 下平声二蕭(しょう)韻の橋、消、遙
第13~16句 去声二十三漾(よう)韻の上、望、唱
第17~20句 下平声七陽(よう)韻の央、光、涼
第21~24句 上声十三阮(げん)韻の坂、遠、蹇
第25~32句 上平声十三元(げん)韻の孫、煩、樽、翻、元、源
の字が使われている。
作者略伝
宮崎東明 1889-1969
名は喜太郎、東明は号。明治22年3月河内国四條村野崎(現在の大東市)に生まれる。京都府立医学専門学校を卒業、大阪玉川町に医院を開く。医業のかたわら詩を藤澤黄坡(ふじさわこうは)、書を臼田岳洲(うすだがくしゅう)、画を中国人方洺(ほうめい)、篆刻(てんこく)を高畑翠石(たかはたすいせき)、吟詩を眞子西洲(まなごさいしゅう)の各先生に学び、その居を五楽庵と称した。昭和9年関西吟詩同好会(現、公益社団法人関西吟詩文化協会)を創設し、昭和23年、藤澤黄坡初代会長没後二代目会長に就任。昭和44年9月18日没す。年82。
参考
摂津峡
高槻市にあり、淀川支流の芥(あくた)川の中流にある渓谷で奇巌、滝、淵等が多く四季を通じて、桜、新緑、紅葉等の景勝地で、摂津耶馬渓ともいわれる。延長約2キロメートル。