漢詩紹介

読み方
- 攝津峽吟行(4-3)<宮崎東明>
- 知る是此の處 溪の中央と
- 溪中第一 好風光
- 急流石に激して 飛沫白く
- 小亭水に臨んで 午風涼し
- 勇を鼓して一路 山坂を攀ず
- 山坂羊腸 前途遠し
- 喉は渇き脚は疲れて 奈何ともす可き
- 老鶯意有り 疲蹇を慰む
- せっつきょうぎんこう<みやざきとうめい>
- しるこれこのところ けいのちゅうおうと
- けいちゅうだいいち こうふうこう
- きゅうりゅういしにげきして ひまつしろく
- しょうていみずにのぞんで ごふうすずし
- ゆうをこしていちろ さんはんをよず
- さんはんようちょう ぜんととおし
- のどはかわきあしはつかれて いかんともすべき
- ろうおういあり ひけんをなぐさむ
字解
-
- 老 鶯
- 春過ぎてからも鳴く鶯 時期遅れの鶯
-
- 疲 蹇
- 疲れた足
意解
ちょうどこの辺りは谷あいの中程で、この渓谷の一番良い景色といわれている。
急流は石に当たって白く水しぶきをあげ、水辺の山小屋は昼どきの風も一層涼しく感じる。
ひと休みののち元気を出して一路また山坂を登って行くと、坂は曲がりくねり、目的地はまだまだ遠いようだ。
喉は渇き脚は疲れてどうにもならない。折から時期おくれの鶯の声が聞こえてきて、脚のつかれた私達を慰めてくれているようだ。
備考
この詩は高槻市の摂津耶馬渓といわれる景勝を朋友と共に吟行をしたときの作である。
詩の構造は七言古詩の形であって韻は次の通りである。
第1~4句 上平声十三元(げん)韻の村、魂、繁
第5~8句 去声七遇(ぐう)韻の路、趣、布
第9~12句 下平声二蕭(しょう)韻の橋、消、遙
第13~16句 去声二十三漾(よう)韻の上、望、唱
第17~20句 下平声七陽(よう)韻の央、光、涼
第21~24句 上声十三阮(げん)韻の坂、遠、蹇
第25~32句 上平声十三元(げん)韻の孫、煩、樽、翻、元、源
の字が使われている。
作者略伝
宮崎東明 1889-1969
名は喜太郎、東明は号。明治22年3月河内国四條村野崎(現在の大東市)に生まれる。京都府立医学専門学校を卒業、大阪玉川町に医院を開く。医業のかたわら詩を藤澤黄坡(ふじさわこうは)、書を臼田岳洲(うすだがくしゅう)、画を中国人方洺(ほうめい)、篆刻(てんこく)を高畑翠石(たかはたすいせき)、吟詩を眞子西洲(まなごさいしゅう)の各先生に学び、その居を五楽庵と称した。昭和9年関西吟詩同好会(現、公益社団法人関西吟詩文化協会)を創設し、昭和23年、藤澤黄坡初代会長没後二代目会長に就任。昭和44年9月18日没す。年82。
参考
摂津峡
高槻市にあり、淀川支流の芥(あくた)川の中流にある渓谷で奇巌、滝、淵等が多く四季を通じて、桜、新緑、紅葉等の景勝地で、摂津耶馬渓ともいわれる。延長約2キロメートル。