漢詩紹介

読み方
- 攝津峽吟行(4-4)<宮崎東明>
- 竹林十里 竹孫長じ
- 小蟲飛び來り 眼に入りて煩わし
- 漸く到る 神峯山中の寺
- 盡日清遊 瓢樽を傾く
- 一吟一酌 醉墨翻り
- 我も亦探韻 韻元を得て
- 七古吟は成り 一噱を博す
- 歸り來りて夢は飛ぶ 攝峽の源
- せっつきょうぎんこう<みやざきとうめい>
- ちくりんじゅうり ちくそんちょうじ
- しょうちゅうとびきたり めにいりてわずらわし
- ようやくいたる かぶさんちゅうのてら
- じんじつせいゆう ひょうそんをかたむく
- いちぎんいっしゃく すいぼくひるがえり
- われもまたたんいん いんげんをえて
- しちこぎんはなり いっきゃくをはくす
- かえりきたりてゆめはとぶ せっきょうのみなもと
字解
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- 竹 孫
- たけのこ
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- 神峯山中寺
- 神峯山寺 標高200㍍の山腹にある 天台宗新西国十四番の札所
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- 傾瓢樽
- 酒を呑む
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- 醉墨翻
- 酒に酔ったよい機嫌で詩や画を書く
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- 探 韻
- 韻字を探す
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- 七 古
- 七言古詩
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- 博一噱
- 「噱」は笑う 人にみせて一笑を得る
意解
広々と続く竹林には、たけのこが伸びていて、そんな中を進むと、小さな虫が目に飛び込んできて煩わしい。
そのうちようやく神峯山寺にたどりつき、一日中すがすがしい気分で遊び、そして酒杯を傾けあった。
一吟しては一酌、一酌しては一吟するうち、みんな一杯機嫌で筆先も軽やかになり、私もまた韻を探り「元」の韻字を得た。
そして、七言古詩を作ることができ、友人たちにみてもらい一笑を得、家に帰って今日の楽しかった清遊を振り返ると、今宵の夢にまた摂津峡のことが現れるだろう。
備考
この詩は高槻市の摂津耶馬渓といわれる景勝を朋友と共に吟行をしたときの作である。
詩の構造は七言古詩の形であって韻は次の通りである。
第1~4句 上平声十三元(げん)韻の村、魂、繁
第5~8句 去声七遇(ぐう)韻の路、趣、布
第9~12句 下平声二蕭(しょう)韻の橋、消、遙
第13~16句 去声二十三漾(よう)韻の上、望、唱
第17~20句 下平声七陽(よう)韻の央、光、涼
第21~24句 上声十三阮(げん)韻の坂、遠、蹇
第25~32句 上平声十三元(げん)韻の孫、煩、樽、翻、元、源
の字が使われている。
作者略伝
宮崎東明 1889-1969
名は喜太郎、東明は号。明治22年3月河内国四條村野崎(現在の大東市)に生まれる。京都府立医学専門学校を卒業、大阪玉川町に医院を開く。医業のかたわら詩を藤澤黄坡(ふじさわこうは)、書を臼田岳洲(うすだがくしゅう)、画を中国人方洺(ほうめい)、篆刻(てんこく)を高畑翠石(たかはたすいせき)、吟詩を眞子西洲(まなごさいしゅう)の各先生に学び、その居を五楽庵と称した。昭和9年関西吟詩同好会(現、公益社団法人関西吟詩文化協会)を創設し、昭和23年、藤澤黄坡初代会長没後二代目会長に就任。昭和44年9月18日没す。年82。
参考
摂津峡
高槻市にあり、淀川支流の芥(あくた)川の中流にある渓谷で奇巌、滝、淵等が多く四季を通じて、桜、新緑、紅葉等の景勝地で、摂津耶馬渓ともいわれる。延長約2キロメートル。