漢詩紹介

読み方

  • 華嚴の瀑(3-2)<小野湖山>
  • 是水か水に非ず 雪か雪に非ず
  • 亂れて珠玉と爲り 散じて烟と爲る
  • 山日倒に射て 溪風激し
  • 人をして耳聾し目眩し 心膽を寒からしむ
  • 壯は則ち孟軻 直養の氣の
  • 天地古今を 貫くが如く
  • 快は則ち項羽 鉅鹿の戰いに
  • 人馬萬千を 殲すが如し
  • けごんのたき<おのこざん>
  • これみずかみずにあらず ゆきかゆきにあらず
  • みだれてしゅぎょくとなり さんじてけむりとなる
  • さんじつさかしまにいて けいふうげきし
  • ひとをしてみみろうしめくらまし しんたんをさむからしむ
  • そうはすなわちもうか ちょくようのきの
  • てんちここんを つらぬくがごとく
  • かいはすなわちこうう きょろくのたたかいに
  • じんばまんせんを つくすがごとし

字解

  • 孟 軻
    戦国時代の思想家孟子の名
  • 直養之氣
    浩然の気 天地間に充満している大きく強い気
  • 鉅鹿之戰
    「鉅鹿」は戦国時代の趙の都市 項羽が秦の大軍を破った戦い

意解

 さてこれは水だろうかと思ってみると水ではなく、雪だろうかと思ってみると雪でもなく、乱れ落ちては美しい珠となり、乱れ飛んで細かな霧となっている。
 (それに滝口は高いところにあるものだから)山中の太陽が下から照らしている錯覚に陥り、加えて渓谷の間の風が激しいので、人の耳を聞こえにくくし、目を回させて心胆を寒々とさせる。
 この瀑の勢い盛んなことを形容してみると、あたかも孟子のいう浩然の気が天地古今を貫いているようであり、またその豪快さは項羽が鉅鹿の戦いで幾万の兵馬を倒し尽くしたようでもある。

備考

 この詩の構造は古詩の形であって韻は次の通りである。
  第2・4・20句   上平声十五刪(さん)韻の山、間、顔
  第6・8・10・16・23句 下平声一先(せん)韻の懸、闐、烟、千、然
  第12・18句    上平声十四寒(かん)韻の寒、觀
  第14句        下平声十二侵(しん)韻の今
 の字が通韻して使われている。

参考

 一韻到底格  近体詩では、決められた句末に同じ韻を使う事になっている。これを一韻到底格という。
  換 韻   これに対し古詩では数句ごとに途中で韻を変えることが出来る。これを換韻という。

作者略伝

小野湖山 1814-1910

 江戸時代後期、明治の漢詩人。近江(滋賀県)東浅井郡田根村で医師の横山玄篤(げんとく)の長男として生まれる。医学を学び、梁川星巖の玉池(ぎょくち)吟社に入って詩を学んだ。本姓は横山、名は長愿(ながよし)、また巻(おさむ)ともいう。湖山は号。勤王の志士と交わり明治維新後は一時新政府に仕えたこともある。大阪で優遊吟社をおこし子弟を教えた。のち東京に移住し明治43年3月病のため没す。年97。著書に「湖山楼詩鈔」「湖山近稿」「湖山消閑集」などがある。