漢詩紹介

読み方
- 華嚴の瀑(3-3)<小野湖山>
- 數えず廬岳 天台の勝を
- 斷じて宇内の 眞大觀と爲す
- 嗚呼謫仙は逝き 仙才は絶ゆ
- 敢て詩を題せんと欲するは 原厚顔
- 我聞く 佛に諸宗有って
- 華嚴 第一に居ると
- 乃ち以て瀑に名づけしは 偶然に非ず
- けごんのたき<おのこざん>
- かぞえずろがく てんだいのしょうを
- だんじてうだいの しんたいかんとなす
- ああたくせんはゆき せんさいはたゆ
- あえてしをだいせんとほっするは もとこうがん
- われきく ぶつにしょしゅうあって
- けごん だいいちにおると
- すなわちもってたきになづけしは ぐうぜんにあらず
字解
-
- 廬岳天台
- 廬岳は江西省に 天台山は浙江省にある名山
-
- 宇 内
- 宇宙のうち 天下のうち
-
- 大 觀
- 優れた景観
-
- 謫 仙
- 人間世界へ流謫された仙人 ここでは李白
-
- 仙 才
- 仙人の才能を備えた人 李白のような優れた詩人
-
- 厚 顔
- 厚かましい
-
- 華 嚴
- 華厳宗 釈迦が悟りを開いて最初に説いた教え
意解
中国には有名な廬岳とか天台山とかいう景勝があるが、それらはものの数ではなく、この瀑こそ天地の間で優れた景観と断定してよい。
ああすでに李白は死んでしまって仙才といわれる詩人は無く、私のような凡才が無遠慮に華厳の滝の詩を作るのは恥知らずで厚かましいことである。
私は、仏教には多くの宗派があり、その中で華厳宗が第一位にあると聞いている。だからこの威容を誇る瀑に華厳と名づけたのは偶然なことではない。
備考
この詩の構造は古詩の形であって韻は次の通りである。
第2・4・20句 上平声十五刪(さん)韻の山、間、顔
第6・8・10・16・23句 下平声一先(せん)韻の懸、闐、烟、千、然
第12・18句 上平声十四寒(かん)韻の寒、觀
第14句 下平声十二侵(しん)韻の今
の字が通韻して使われている。
参考
一韻到底格 近体詩では、決められた句末に同じ韻を使う事になっている。これを一韻到底格という。
換 韻 これに対し古詩では数句ごとに途中で韻を変えることが出来る。これを換韻という。
作者略伝
小野湖山 1814-1910
江戸時代後期、明治の漢詩人。近江(滋賀県)東浅井郡田根村で医師の横山玄篤(げんとく)の長男として生まれる。医学を学び、梁川星巖の玉池(ぎょくち)吟社に入って詩を学んだ。本姓は横山、名は長愿(ながよし)、また巻(おさむ)ともいう。湖山は号。勤王の志士と交わり明治維新後は一時新政府に仕えたこともある。大阪で優遊吟社をおこし子弟を教えた。のち東京に移住し明治43年3月病のため没す。年97。著書に「湖山楼詩鈔」「湖山近稿」「湖山消閑集」などがある。