漢詩紹介

読み方
- 山寺に宿る(2-1)<宮崎東明>
- 千林搖落 山容痩せ
- 山村處處 橘柚熟す
- 滿目皚皚 曉霜繁く
- 寒風吹き來って 衣間に透る
- 山を登ること十里 雲半ば封じ
- 山中路を迷うて 晩鐘を聽く
- 此の夜宿を借る 山上の寺
- 高僧情有り 歡び迎え逢う
- 佛香滿滿 曇華の席
- 寒月皓皓 窓外に白し
- さんじにやどる<みやざきとうめい>
- せんりんようらく さんようやせ
- さんそんところどころ きつゆうじゅくす
- まんもくがいがい ぎょうそうしげく
- かんぷうふききたって いかんにとおる
- やまをのぼることじゅうり くもなかばふうじ
- さんちゅうみちをまようて ばんしょうをきく
- このよやどをかる さんじょうのてら
- こうそうじょうあり よろこびむかえあう
- ぶっこうまんまん どんげのせき
- かんげつこうこう そうがいにしろし
字解
-
- 皚 皚
- 霜や雪などが降って真っ白なさま
-
- 曇華席
- 寺の座敷
-
- 皓 皓
- 月などの白く光って明るいこと
意解
たくさんの林の樹木は、葉も散り落ちて、山の姿は痩せ細り山あいの里には処どころに蜜柑や柚が熟れている。
見渡す限り真っ白く霜が降りて、吹いてくる寒い風が衣服を通す。
山をどんどん登ってゆくにつれ雲にさえぎられ、山の中で路に迷ったが、そのとき晩鐘が聞こえてきた。
(鐘の音を頼りに)山上にある寺にたどり着き、一夜の宿をお願いすれば、徳の高いご住職は心から私を歓んで迎え入れてくれた。
お寺の座敷は線香のにおいと清浄な気配が満ち満ちて、窓の外には寒月が白く明るく輝いていた。
備考
この詩は人里離れた山深い処に建つ古い寺を尋ねて一夜の宿を乞い、高徳の住僧と深夜まで風流雅談に時の移るのを忘れ、俗世を離れて仙境に遊んだ心情を賦している。
詩の構造は七言古詩の形であって韻は次の通りである。
第1・2・4句 去声二十六宥(ゆう)韻の痩、柚、透
第5・6・8句 上平声二冬(とう)韻の封、鐘、逢
第9・10・12句 入声十一陌(はく)韻の席、白、客
第13・14・16句 下平声八庚(こう)韻の更、烹、情
第17・18・20句 入声十三職(しょく)韻の極、域、德
の字が使われている。
作者略伝
宮崎東明 1889-1969
名は喜太郎、東明は号。明治22年3月河内国四條村野崎(現在の大東市)に生まれる。京都府立医学専門学校を卒業、大阪玉川町に医院を開く。医業のかたわら詩を藤澤黄坡(ふじさわこうは)、書を臼田岳洲(うすだがくしゅう)、画を中国人方洺(ほうめい)、篆刻(てんこく)を高畑翠石(たかはたすいせき)、吟詩を眞子西洲(まなごさいしゅう)の各先生に学び、その居を五楽庵と称した。昭和9年関西吟詩同好会(現、公益社団法人関西吟詩文化協会)を創設し、昭和23年、藤澤黄坡初代会長没後二代目会長に就任。昭和44年9月18日没す。年82。