詩歌紹介

CD③収録 吟者:南方快聖
2015年7月掲載

読み方

  • 浅みどり<菅原孝標女>
  • 浅みどり 花もひとつに 霞みつつ
  • おぼろにみゆる 春の夜の月
  • あさみどり<すがわらのたかすえのむすめ>
  • あさみどり はなもひとつに かすみつつ
  • おぼろにみゆる はるのよのつき

語意

  • 浅みどり
    浅緑 うすみどり色 新芽や空の色などにいう
  • ひとつに
    二つに分けられない 「に」はこの場合変化した結果をいう意をもつ
  • つつ
    …ながら かすみながらと継続することをいう

歌意

 空はうすみどりに花の色もひとつになって、一面にかすんでいておぼろに見える春の夜の月よ。

出典

 「新古今和歌集」(巻一)春歌上・56

作者略伝

菅原孝標女 1008ー?

 平安時代の歌人。「更科(さらしな)日記」の作者。また「浜松中納言物語」「夜の寝覚(ねざめ)」などの作者であるともいわれている。
 父孝標(たかすえ)は道真(みちざね)五代の嫡流(ちゃくりゅう)で、文学的血統と、環境の中に生まれる。幼い頃から物語に憧れをもち、14歳のとき叔母から「源氏物語」全巻と短篇物語集を贈られ耽読(たんどく)する。32歳で祐子(ゆうし)内親王家に出仕(しゅっし)したが、翌年、橘俊通(としみち)と結婚、二児の母となった。38歳頃から、〝現世利益(げんぜりやく=現世の神仏のめぐみ)〟と〝後世安楽(ごせあんらく=死後の心身が安らかで楽しい)〟のため、物語を書きはじめる。51歳のとき夫俊通が病死、悔恨と悲嘆の涙にくれて物詣で(ものもうで=神社や寺に参拝すること)、読経などをやめ、茫然と暮らしたという。その後何歳まで生きたかは不明。一説にいくばくもなく没したという。

備考

 春の情趣に心がひかれるという、思いを詠じた歌。
 うすみどりの霞、桜の花の色もとけこんだ空に浮かぶ朧月の情趣は、まさに幽艶、幻想的ではないか。