詩歌紹介
CD⑤収録 吟者:川村 朋映
2018年2月掲載
読み方
- 茂りあふ<若山牧水>
- 茂りあふ 松の葉かげに こもりたる
- 日ざしは冬の むらさきにして
- しげりあう<わかやまぼくすい>
- しげりあう まつのはかげに こもりたる
- ひざしはふゆの むらさきにして
語意
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- 茂りあふ
- 草木が伸びて枝葉が重なり合うさま
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- こもりたる
- 茂ってそのむこうが隠れて見えないほどに
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- むらさき
- もとは武蔵野に自生した草の名でその根で赤紫色の染料とした色に因んだもの
歌意
おだやかな冬の日ざしが、海岸いっぱいを照らしている。その日ざしは、こんもりと茂り合う松林にもさしている。松の葉にあたる光がむらさき色にみえて、その色合いが美しく、実にすばらしい光景である。
出典
「黒松」
作者略伝
若山牧水 1885-1928
明治18年ー昭和3年。歌人。宮崎県の生まれ。早大卒。本名繁。尾上柴舟(おのえさいしゅう)の門に入る。歌人喜志子(太田喜志)は妻。
初期の恋愛歌で広く知られるが、旅と酒を生涯の友とし、揮毫(きごう)旅行もしばしば行った。牧水調といわれる愛唱歌では他の追随を許さない。昭和3年(1928)9月沼津で没す。年44。「若山牧水全集」その他がある。
備考
この歌は、牧水の最終歌集である第15歌集「黒松」にある。また沼津千本松原の中には「幾山河……」の歌碑がある。朝に夕 に庭つづきの松原にそびえている松林を愛し眺めていたようで歌の中にも多く詠まれている。「黒松の老木がうれの葉のしげみ眞黒なるかも仰ぎつつ 見れば」等々。
歌集「黒松」は牧水存命中に発行されたものではなく、大正12年の春に第14歌集として「山櫻の歌」を出版したのを最後に病没したためとり 残されていた。生前「黒松」という書名まで決めてあったようで妻の喜志子が整理し、没後10年を記念して昭和13年9月に出版された。