詩歌紹介

CD⑤収録 吟者:内海快城
2018年5月掲載
読み方
- 春過ぎて<持統天皇>
- 春過ぎて 夏来るらし 白栲(たへ)の
- 衣乾したり 天の香具山
- はるすぎて<じとうてんのう>
- はるすぎて なつきたるらし しろたえの
- ころもほしたり あまのかぐやま
語意
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- 夏来るらし
- 夏が来たらしい 「らし」は客観的事実にもとづいて推定する内容や気持ちを表す この場合は白い衣が干してあることが根拠である
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- 白栲の
- まっ白な衣 ここでは夏衣 「栲(たえ)」は梶(かじ)などの木の皮の繊維で織った白い布
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- 乾したり
- 干している 「たり」は「~ている」「~てある」という存続の意味を表す
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- 天の香具山
- 耳成山(みみなしやま)・畝傍山(うねびやま)と並ぶ大和三山の一つ 奈良県橿原市(かしはらし)にあり香久山とも書く
歌意
春が過ぎて、もう夏がやって来たらしい。白い夏衣を干している天の香具山よ。
出典
「万葉集」(巻一)28
作者略伝
持統天皇 645ー702
645年の大化の改新の年に天智天皇の娘として生まれ、後に天武天皇の皇后となる。天武天皇死後、690年に第41代の天皇(女帝)に即位し、694年に都を大和橿原の藤原の宮に移した。
備考
香具山は、藤原京遷都以前に持統天皇が起居していた浄御原宮(きよみはらのみや)の北に位置する山で、飛鳥(あすか)の人びとにとって聖なる山である。また、夏の到来を喜ぶ歌は「万葉集」ではこの一首だけで、夏が来たことを喜ぶというより、季節の規則正しい推移を喜び、それは帝王の政治も順当であることの表れと考えられる。
「新古今和歌集」(巻三)夏歌ー175には
春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣干すてふ 天の香具山
「万葉仮名」春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山