詩歌紹介

CD⑤収録 吟者:松尾佳恵
2018年7月掲載

読み方

  • たはむれに<石川啄木>
  • たはむれに 母を背負ひて そのあまり
  • 軽きに泣きて 三歩あゆまず
  • たわむれに<いしかわたくぼく>
  • たわむれに ははをせおいて そのあまり
  • かろきになきて さんぽあゆまず

語意

  • たはむれに
    ふざけて 遊びで
  • 三歩
    実際に三歩ではなく少ない様子 二歩までは歩けたがその後数歩も歩けなかった
  • あゆまず
    ここでは歩めずに近い

歌意

 母が年をとって小さくなった現実、ひどく苦労をかけてきた事実から、目を背けてきたのだけれど、うっかりふざけて母をおぶったところ、そのあまりの軽さが私の背中に伝わった。ここに至るまでにどんなに苦労をかけたことか、いかに大きな恩愛を受けたかと思うと、一歩、二歩は歩けたけれど涙がこぼれてもう動けない。

出典

 1910年出版の短歌集「一握の砂」

作者略伝

石川啄木 1886-1912

 明治19年ー明治45年。歌人・詩人・評論家。岩手県生まれ、名は一(はじめ)。17歳のとき、盛岡中学を中退して東京に出たが、翌年病気のため帰郷して、小学校の代用教員となる。1907年北海道に渡り地方記者を転々とし、翌年作家を志して再び上京、朝日新聞社の校正係となった。貧乏と病気に苦しめられる困難な生活の中で、社会的関心を深め、自己の苦しい生活感情を率直にうたった。また社会主義思想に関心をもったが、世に認められないうちに貧窮の中で胸を病んで早世した。年26。

備考

 1908年(明治41年)三度目の上京の際、中学の先輩で親友、金田一京助の援助もあり本郷区菊坂町赤心館に下宿した。生計のため小説を売り込むが成功せず逼迫(ひっぱく)した暮らしの中、6月23日から25日にかけ「東海の小島~」「たはむれに母を~」など後に広く知られる歌を作り、続いて作った246首とともに翌月の「明星」に発表する。
 口語的な三行書きや鮮やかな表現技法から啄木は生活詩人と知られるようになった。啄木の歌は身近で誰にでもわかりやすく、小説を読むような感じがする。