詩歌紹介

読み方
- 千早ぶる<在原業平>
- 千早ぶる 神代もきかず 龍田川
- からくれないに 水くくるとは
- ちはやぶる<ありわらのなりひら>
- ちはやぶる かみよもきかず たつたがわ
- からくれないに みずくくるとは
語意
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- 千早ぶる
- 「神」にかかる枕詞 「ち=激しい勢いで」「はや=敏捷(びんしょう)に」「ぶる=ふるまう」という言葉を縮めたもの
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- 神代もきかず
- 「神代=(太古の)神神の時代」 不思議なことが当たり前に起こった神神の時代でも聞いたことがないほど不思議な現象だということ
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- 龍田川
- 紅葉の名所で現在の奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)町竜田にある竜田山のほとりを流れる川
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- からくれない
- 鮮やかな紅色 「から」は韓国や唐を意味する言葉
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- 水くくる
- 「くくる」は括(くく)り染め つまり「絞り染め」にするという意味で 紅葉が川一面を真っ赤にして流れていることを竜田川が川の水を絞り染めにしてしまったと見立てている
歌意
さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、こんなことは聞いたことがない。竜田川が(一面に紅葉が浮いて)紅色に水をしぼり染めにしているとは。
出典
「古今和歌集」(巻五)秋・294(百人一首・17番)
作者略伝
在原業平 825ー880
平城(へいぜい)天皇の皇子、阿保(あぼ)親王の息子で、百人一首の16番に歌がある中納言行平(ゆきひら)の異母弟(いぼてい)でもある。右近衛権中将(うこんえごんのちゅうじょう)にまで出世し、「在五中将」や「在中将」と呼ばれ、六歌仙・三十六歌仙の一人で、「伊勢物語」の主人公とされ、伝説の美男で風流才子といわれた。
備考
この歌は「屏風歌(びょうぶか)」である。屏風歌とは、屏風に描かれた絵に合わせて、その脇に和歌を付けたものである。
参考
竜田川を主語にして「擬人法」を使い、また「とは」は上の句の「神代もきかず」につながるので、倒置法も使われている。