詩歌紹介

世の中に   在原業平

読み方

  •  世の中に <在原 業平>
  • 世の中に たえて桜の なかりせば
  • 春の心は のどけからまし
  •  よのなかに <ありわらのなりひら>
  • よのなかに たえてさくらの なかりせば
  • はるのこころは のどけからまし

語意

  • たえて
    全然 まったく
  • なかりせば
    なかったならば
  • のどけからまし
    のどかだろうに

歌意

 もし世の中に全く桜というものがなかったなら、桜の花が咲くのを待ち望んだり、散っていくことを悲しんだりすることもなく、春の人の心はもっとのどかだろうに…。

出典

 「古今和歌集」(巻一)春上53番 「伊勢物語」82段

備考

 「古今和歌集」の詞書(ことばがき)に渚の院にて桜を詠めるとあり、惟喬(これたか)親王の別荘渚の院(現在の枚方(ひらかた)市渚元町)で催された花見の宴で披露された歌。
 春の間に、人々の心を止めどなく一喜一憂させる桜への愛着が切なく表現されている。

作者略伝

在原業平 825~880

 平城(へいぜい)天皇の皇子阿保(あぼ)親王の五男で百人一首の16番に歌がある中納言行平(ゆきひら)の異母弟(いぼてい)でもある。右近衛権中将(うこんえごんのちゅうじょう)にまで出世し、「在五(ざいご)中将」や「在(ざい)中将」と呼ばれ、六歌仙・三十六歌仙の一人で「伊勢物語」の主人公とされ、伝説の美男で風流才子といわれた。享年56。