詩歌紹介

東海の   石川啄木

読み方

  •  東海の <石川 啄木>
  • 東海の 小島の磯の 白砂に
  • われ泣きぬれて 蟹とたわむる
  •  とうかいの <いしかわ たくぼく>
  • とうかいの こじまのいその しらすなに
  • われなきぬれて かにとたわむる

語意

  • たわむる
    たわむれる 遊び興ずる

歌意

 東海の小島の磯の白い砂の上で私は悲しみに耐えかね、泣きぬれながら蟹と遊び興じている。

出典

 「明星」(明治41年7月) 「一握の砂」(明治43年)

備考

 「一握の砂」の冒頭に置かれた作品。おそらく啄木の作品の中で最も知られている歌の一つである。
 北海道の漂泊生活を切りあげ、小説を書くことに専念するため上京した。その小説が売れず厳しい生活苦の中で悩み多い日々を送った。その心情を歌に託そうとしたのである。
 この歌の重要なポイントは、視線の動きにある。東海という大きな空間から始まり「小島」「磯」「われ」と狭まっていく。最後に小さな「蟹」に行きついて、孤独な者同士がなぐさめあっている。

作者略伝

石川啄木 1886~1912

 明治19~45年。歌人・詩人・評論家。岩手県生まれ、名は一(はじめ)。17歳の時、盛岡中学を中退して東京に出たが、翌年病気のため帰郷して小学校の代用教員となる。1907年北海道に渡り、地方記者を転々とし、翌年作家を志して再び上京、朝日新聞社の校正係となった。貧乏と病気に苦しめられる困難な生活の中で、社会的関心を深め、自己の苦しい生活環境を率直に詠った。また社会主義思想に関心を持ったが、世に認められないうちに、貧窮の中で胸を病んで早世した。享年27。