詩歌紹介

月みれば  大江千里

読み方

  •  月みれば <大江 千里>
  • 月見れば ちぢにものこそ かなしけれ
  • 我が身ひとつの 秋にはあらねど
  •  つきみれば <おおえのちさと>
  • つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ
  • わがみひとつの あきにはあらねど

語意

  • ちぢに
    さまざまに 限りなく
  • ものこそかなしけれ
    何となく悲しい

歌意

 月を見ていると、さまざまに悲しい思いがつのってくる。なにも私一人だけの秋ではないのに。思いは何とたくさん有ることだろう。

出典

 「古今和歌集」(巻四)秋上193番

備考

 是貞親王家歌合(うたあわせ)に詠んだ歌。「白氏文集」(巻15)「燕子楼中(えんしろうちゅう)霜月の夜秋来りて唯一人の為に長し」から影響が見て取れる。

参考

 月を見て悲哀を感じるのは、当時の歌人の常識的な感情である。
 係助詞「こそ」があるときは、文末を「れ」段で終わり、「こそ」の付く語を強める表現を係り結びと言う。この場合は「もの」だけでなく「ちぢに」も含めて強めているとみて「さまざまに何もかも際限なく」というふうに、広く深い作者の思いを感じたい。文末は本来なら「かなし」と終止形になるのだが「かなしけれ」と変化する。

作者略伝

大江千里 生没年不詳

 平安時代前期の漢学者、歌人。中古三十六歌仙の一。参議大江音人(おおえのおとんど)の子。903年(延喜3)兵部大丞(ひょうぶだいじょう)。宇多天皇の勅命によって「句題和歌」を奉った。