詩歌紹介

白鳥は  若山牧水

読み方

  •  白鳥は <若山 牧水>
  • 白鳥は 哀しからずや 空の青
  • 海のあおにも 染まずただよう
  •  しらとりは <わかやま ぼくすい>
  • しらとりは かなしからずや そらのあお
  • うみのあおにも そまずただよう

語意

  • 白 鳥
    鷗(かもめ) 初出の雑誌「新声」では「はくてう」というルビがついている
  • あ を
    青色 白と黒との範囲の色でおもに青、緑、藍をさすが時には灰色などもさす

歌意

 白鳥は哀しくないのだろうか。空の青色、海の青色にも染まることなく漂っている。

出典

 雑誌「新声」(明治40年12月号) 第一歌集「海の声」(明治41年) 第三歌集「別離」(明治43年)

参考

 早稲田大学英文科卒業(24歳)の年に「海の声」を自費出版する。表紙(平福百穂筆)にはこの歌がモチーフとなり、1羽の鳥がややうつむき加減に飛んでいる姿が描かれている。空や海の青に鳥の白を対照させ、広大な自然の中に生きる白鳥の、また作者自身の青春の孤愁と哀傷が感じられる。恋に悩み世間という青に染まりきれない牧水である。この一首は「海の声」では、ほぼ冒頭近くに置かれたが「別離」では「女ありき、われと共に安房(あわ)の渚に渡りぬ。われその傍らにありて夜も昼も絶えず歌ふ、明治40年早春」という詞書とともに、恋人園田小枝子との旅の中の一連の歌として配列された。この配列の中で読むと、白鳥は小枝子と牧水の2人なのかもしれない。

作者略伝

若山牧水 1885~1928

 歌人で宮崎県東臼杵(うすき)郡東郷村(現・日向市)の生まれ。代々医者の家系。早稲田大学卒。本名は繁(しげる)。明治37年尾上柴舟(おのえさいしゅう)の門に入る。初期の恋歌で広く知られ、歌人太田喜志子は妻。旅と酒と桜を生涯の友とし、揮毫(きごう)旅行もしばしば行った。牧水調といわれる愛唱歌で親しまれ、「若山牧水全集」その他がある。沼津で没す。享年44。