詩歌紹介

CD3収録 吟者:山口華雋
2015年11月掲載

読み方

  • 小景異情<室生犀星>
  • ふるさとは 遠きにありて 思ふもの
  • そして悲しく うたふもの
  • よしやうらぶれて 異土の乞食と なるとても
  • 帰るところに あるまじや
  • ひとり都の ゆふぐれに ふるさとおもひ 涙ぐむ
  • そのこころもて
  • 遠きみやこに かへらばや
  • 遠きみやこに かへらばや
  • しょうけいいじょう<むろうさいせい>
  • ふるさとは とおきにありて おもふ(お)もの
  • そしてかなしく うたふ(とお)もの
  • よしやうらぶれて いどのかたゐ(い)と なるとても
  • かえるところに あるまじや
  • ひとりみやこの ゆふ(う)ぐれに ふるさとおもひ(い) なみだぐむ
  • そのこころもて
  • とおきみやこに かへ(え)らばや
  • とおきみやこに かへ(え)らばや

語意

  • 小 景
    ちょっとした風景 光景
  • 異 情
    風変わりな心
  • ふるさと
    自分が生まれ育った土地 ここでは金沢のこと
  • よしや
    たとえ 仮に
  • うらぶれて
    みすぼらしくなって
  • 異 土
    異国 見知らぬ土地
  • 乞 食
    人から金や物をめぐんでもらって生活している人
  • あるまじや
    あるまい
  • かへらばや
    帰りたいものだ

詩意

 ふるさとは、遠く離れてなつかしく思い出して悲しく歌うべきもので、たとえ異郷で乞食(かたい)に落ちぶれても帰って来るべき所ではない。
 ふるさとを遠く離れた都会で、夕暮れには望郷の念に涙ぐむのが常だが、その思いを心に抱いてまた都会に帰って行こう。

出典

 「抒情小曲集(じょじょうしょうきょくしゅう)」

作者略伝

室生犀星 1889─1962

 石川県金沢市生まれ。本名照道(てるみち)。犀星は号。別号魚眠洞(ぎょみんどう)。詩人、小説家。父は加賀藩士、小畠弥左衛門吉種(こばたけやざえもんよしたね)。7歳の時、室生真乗(しんじょう)の養嗣子(ようしし)となる。13歳、金沢高等小学校中退。不遇な境涯(きょうがい)の中、俳句に傾斜。その後、詩人として立つことを決意し、北原白秋、萩原朔太郎らに才能を認められた。詩集「愛の詩集」「抒情小曲集」があり、後に小説に転じ、「性に眼覚める頃」「あにいもうと」「杏っ子」などがある。昭和37年3月26日没す。年73。

備考

 <詩の背景>若き日の犀星は、複雑な家庭環境のため早くから人生の孤独を知らされ、また愛情に飢えていた。文学を志して明治43年5月に上京したが、彷徨と貧苦の生活で志を得ず何度か故郷金沢との間を往復している。「抒情小曲集」の詩編は、こうした生活の中で書きつづられたものである。