詩歌紹介

CD3収録 吟者:鈴木永山
2015年11月掲載
読み方
- 落葉松<北原白秋>
- からまつの林を過ぎて
- からまつをしみじみと見き
- からまつはさびしかりけり
- たびゆくはさびしかりけり
- からまつの林を出でて
- からまつの林に入りぬ
- からまつの林に入りて
- また細く道はつづけり
- 世の中よ あはれなりけり
- 常なけどうれしかりけり
- 山川に山がはの音
- からまつにからまつのかぜ
- からまつ<きたはらはくしゅう>
- からまつのはやしをすぎて
- からまつをしみじみとみき
- からまつはさびしかりけり
- たびゆくはさびしかりけり
- からまつのはやしをいでて
- からまつのはやしにいりぬ
- からまつのはやしにいりて
- またほそくみちはつづけり
- よのなかよ あは(わ)れなりけり
- つねなけどうれしかりけり
- やまかは(わ)にやまがは(わ)のおと
- からまつにからまつのかぜ
語釈
-
- からまつ
- 高冷地に生えるマツ科の落葉高木
-
- しみじみ
- 深く心にしみるさま よくよく つくづく
-
- 常なけど
- 定めなく はかないものだけれど
通釈
からまつの林を歩きながらしみじみと見れば、からまつはいかにも寂しい、その寂しさは、旅にある自分の心の寂しさに触れあう。とぎれては続き、またとぎれては続く林、その中をほそぼそと通る一本の道もいかにもわびしい。人生は無常であるが、自然の営みは変化に富み多様であって、おのずからなる楽しみを与えてくれる。
出典
「水墨集(すいぼくしゅう)」
作者略伝
北原白秋 1885─1942
福岡県門郡沖ノ端村(現柳川市)生まれ。名は隆吉。詩人。歌人。早稲田大学中退。「文庫」に詩を投じて認められ、のち与謝野寛の創刊した「明星」「スバル」に作品を載せ、長足の進歩をとげた。晩年には短歌に力を注ぎ「多磨」を主宰して、象徴的あるいは印象的手法で新鮮な感覚情緒を述べた。明治・大正・昭和の三代にわたり、詩・短歌・民謡・童謡の広い分野に大きな足跡を残した。詩集「邪宗門(じゃしゅうもん)」、歌集「白南風(しらはえ)」、童謡集「トンボの眼玉」、民謡集「日本の笛」など著作は200冊に及ぶ。昭和16年芸術院会員。翌年病没。
備考
この詩は、大正10年11月号の「明星」に発表された作品で、信州浅間山麓の落葉松林を歩きながら感じた思いを綴ったものである。この詩は8章からなり、4句を以て1章となし、各1章が独立して鑑賞に堪え得るように書かれているが、一編の詩として見た場合、まず第1章に主題を打ち出し、第2章から第7章にかけては、作者の歩みにつれて変わる風景を述べながら「からまつはさびし」「たびゆくはさびし」という主題を分かりやすく展開させ、第8章に人生に対する思いを述べて全体を結ぶという構成をとっている。