詩歌紹介

CD⑤収録 吟者:藤本曙冽
2018年5月掲載

読み方

  • ひさかたの<紀友則>
  • 久方の光のどけき 春の日に
  • しづ心なく 花のちるらむ
  • ひさかたの<きのとものり>
  • ひさかたのひかりのどけき はるのひに
  • しづごころなく はなのちるらん

語意

  • ひさかたの
    日・空など天体に関する語にかかる枕詞(まくらことば)
  • しづ心
    落ち着いた心
  • 花のちるらむ
    「花」は桜 「らむ」は現在推量の助動詞だがここでは原因推量を表す どうして…なのだろう

歌意

 日の光がのどかな春の日に、落ち着いた心も無く、どうして桜の花はあわただしく散るのであろうか。

出典

 「古今和歌集」春下八十四「百人一首」

作者略伝

紀 友則 生没年未詳

 平安時代初期の歌人。三十六歌仙の一人。紀貫之(きのつらゆき)の従兄。40代半ばまで無官であった。歌人としての活躍は目覚ましく、「古今和歌集」の編者に選ばれたが完成前に病没したらしい。「古今和歌集」には48首載せられ、数では第3位。享年50歳ぐらい。

備考

 前半は穏やかな調べで、後半はあわただしいさまを詠む歌い方に、良いリズムを感じる。「どうして桜は散り急ぐのだろうか」と自問自答しているところに人生観も交えた深い意味が広がる。

 枕ことば=ある特定の語を導き出すための、五音からなる修飾句である。特に訳さなくてもよいが、語調を整えたり彩りを添えたりする効果がある。
  例 あしひきの→山 あをによし→奈良 くさまくら→旅
    しろたへの→衣 たらちねの→母  ももしきの→大宮