詩歌紹介

CD③収録 吟者:古賀千翔
2015年7月掲載

読み方

  • 田子の浦ゆ<山部赤人>
  • 田子の浦ゆ 打ち出でて見れば 真白にぞ
  • 富士の髙嶺に 雪は降りける
  • たごのうらゆ<やまべのあかひと>
  • たごのうらゆ うちいでてみれば ましろにぞ
  • ふじのたかねに ゆきはふりける

語意

  • 田子の浦ゆ
    田子の浦を通って 現在の田子の浦は静岡県富士郡富士川東南の地をいうが 当時は今の庵原郡興津川(いはらぐんおきつがわ)河口にまで及ぶ海岸一帯を呼ぶ 「ゆ」は時や動作の通過点をいう
  • 打ち出でて見れば
    広々として見晴らしの良い所へ出て見ると 「うち」は「出づ」の音調を整えるための接頭語
  • 真白にぞ
    真っ白に、まあ

歌意

 田子の浦を通って広々と見晴らしの良い所へ出てみると、真っ白に、まあ、富士の高嶺に雪が降り積っていることだ。

出典

 「萬葉集」(巻三)318

作者略伝

山部赤人 生没年不詳

 「萬葉集」は第一期から第四期に区分されるが、第三期に属し「山部(やまべ)」と記される「山部宿禰赤人(やまべのすくねあかひと)」であり、元明・元正・聖武天皇時代(奈良時代)の歌人。一説には天平8年・9年(736)頃、疫病のため没したともいわれる。諸国を旅し、清明な自然の情調美を尊ぶ潮流の源をなした。歌聖と称され、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)とともに三十六歌仙の一人。

備考

 この歌は萬葉集(巻三)317番目に山部宿禰赤人「不尽山(ふじのやま)を望(まつ)る歌一首」の長歌に対する反歌(はんか)で、318番目に詠まれている。東国に旅に出て富士山を見た感動を力強く歌い出したものである。
 長歌=和歌の一体。五音、七音の句を三つ以上連ねて、最後に七音を添え、普通それに反歌をつけた歌。
 反歌=長歌の内容をまとめたり、補ったりして長歌のあとに詠み加える短歌のこと。
 「新古今集」や「百人一首」では「田子の浦にうち出でて見れば白妙の富士の高嶺に雪は降りつつ」と改作されている。