漢詩紹介

CD④収録 吟者:山口華雋
2016年6月掲載

読み方

  •  江 雪  <柳宗元>
  • 千山 鳥飛ぶこと絶え
  • 万径 人蹤滅す
  • 孤舟 蓑笠の翁
  • 独り 寒江の 雪に釣る
  •  こうせつ  <りゅうそうげん>
  • せんざん とりとぶことたえ
  • ばんけい じんしょうめっす
  • こしゅう さりゅうのおう
  • ひとり かんこうの ゆきにつる

詩の意味

 見渡す限りの山々には飛ぶ鳥の姿も見えず、道という道は雪に埋もれて、人の足跡も消えてしまった。

 それなのに、一艘の小舟には蓑笠を着けた老人が、ただ一人、寒々とした川辺で雪降る中、釣り糸を垂れている。

語句の意味

  • 江 雪
    川辺に降る雪
  • 万 径
    多くの小道
  • 人 蹤
    人の足跡
  • 蓑 笠
    蓑とかぶり笠
  • 寒 江
    寒々とした冬の川

鑑賞

  雪降る中に釣りをする翁はいったい何者か

 この詩は30歳代に永州に左遷されていた間の作とみる。永州は地図で見ると台湾の緯度に在るため毒蛇の出る亜熱帯圏であるが、山間部なので雪も降るのであろう。

 起句、承句は対句で始まり、ある種の広大で静かな絶景を思い浮かべるが、転句、結句になると「孤舟」「独釣」と視界が狭くなっている。この変化を味合わなければならない。宗元は21歳の若さで科挙に合格している。これは秀才中の秀才である証ともいえる。将来は国の高官に昇り、手腕を発揮するコースであるが、彼の正義感が災いしたのか、時勢が彼に味方しなかったのか、時の天子に受け入れられず、地方役人の人生を余儀なくされた。この閉塞感が前2句に投影されている。そして後半に移る。政治家として脚光を浴びることはもうないと自分で悟ったのか、いや自分ほどの者が再び都に戻らないなどあるはずもないと、迷いと焦燥の日々であった。そこに偶然に目に留まったのが寒中の釣り人。彼は世俗を超越し、高雅な姿で悠然として生きているではないか。これこそあるべき人間の姿ではないか。作者の憧れの人物を発見したのである。

 この詩が単なる叙景でなく、孤高の人生の尊さを詠じて人々に共感を与えるから、名作なのである。

参考

  唐宋八大家=唐宋二代の8人の大文章家

 唐=韓愈・柳宗元

 宋=欧陽修・蘇洵・蘇軾・蘇轍・曾鞏・王安石

詩の形

 平起こり五言古詩の形であって、仄韻入声九屑(せつ)韻の絶、滅、雪の字が使われている。起句・承句は対句になっている。

結句 転句 承句 起句

作者

柳宗元  773~819

  中唐の政治家・文章家・詩人

 字は子厚(しこう)。河東(山西省永済県)の出身。少年の頃より秀才の誉れ高く21歳で進士に合格する。26歳で高級官僚の試験に受かり要職に就く。当時政治は腐敗していたので、宗元は改革派に属し奮闘したが、守旧派の天子が即位するや、宗元は33歳で劭州刺史に、次いで永州司馬に左遷される。10年後やっと帰還が許されたが、またもや柳州に追いやられ、その地で没す。散文にも優れ、特に「捕蛇者説」は有名。唐宋八大家の一人。「柳河東集」(45巻)がある。享年47。