漢詩紹介

読み方

  • 酒を酌んで裴迪に與う<王維>
  • 酒を酌んで君に與う 君自ら寛うせよ
  • 人情の翻覆 波瀾に似たり
  • 白首の相知 猶劍を按じ
  • 朱門の先達 彈冠を笑う
  • 草色全く 細雨を經て濕い
  • 花枝動かんと欲して 春風寒し
  • 世事浮雲 何ぞ問うに足らん
  • 如かず高臥して 且つ餐を加えんには
  • さけをくんではいてきにあとう<おうい>
  • さけをくんできみにあとう きみみずからゆるうせよ
  • にんじょうのはんぷく はらんににたり
  • はくしゅのそうち なおけんをあんじ
  • しゅもんのせんだつ だんかんをわろう
  • そうしょくまったく さいうをへてうるおい
  • かしうごかんとほっして しゅんぷうさむし
  • せじふうん なんぞとうにたらん
  • しかずこうがして かつさんをくわえんには

字解

  • 自 寛
    ゆったりした気持ちになる
  • 翻 覆
    ひっくりかえる
  • 波 瀾
    波 大波小波
  • 白 首
    しらがあたま
  • 朱 門
    富貴の人の家(貴族や高官の門は赤く塗ることが許された)
  • 先 達
    学問官位などが自分より先に進んだ者 その道の先輩
  • 彈 冠
    冠をはじいて塵を払う 仕官の準備をすること
  • 加 餐
    ごはんを沢山食べる 体に気をつける

意解

 酒をついで君にさしあげる。まあ一杯飲んで気分をゆったりさせ給え。世間の人情はくるりくるりとひっくりかえりまるで波のようである。
 しらが頭になるまでつきあった友人でも、ひとたび何かあると剣のつかに手をかけ合い、朱門の家に住んでいる先輩達も昔なじみの友人が仕官を待っているのをみるとあざけり笑うありさまだ。
 自然界でも雑草がそぼふる春雨によって湿い、青々と色づいているのに、枝の花が開こうとするには春風が冷たい。(草は小人を、花は不遇の君子をいう)
 まあ世間のことは浮き雲のようにあてにならない。だから心安らかに枕を高くして寝そべり、うまいものを食べて体に気をつけることだ。

備考

 裴迪(716-?)は王維の無二の詩友であり、王維の輞川の別荘の近くに住居をかまえ互いに往来して詩酒を交わしていた。あるとき身の不遇をなげく裴迪を慰めるべく杯をすすめながら即興でこの詩を作った。「唐詩選」に所収されている。
 この詩の構造は七言律詩の形であって、上平声十四寒(かん)韻の寛、瀾、冠、寒、餐の字が使われている。近体詩の法則には合致しておらず拗体である。第六句は平字下三連になっている。

尾聯 頸聯 頷聯 首聯

作者略伝

王 維 701-761

 盛唐の詩人。字は摩詰(まきつ)、山西省太原の人、開元19年(731)の進士。弟縉(しん)と共に幼少より俊才、官は尚書右丞(しょうしょゆうじょう)に至る。55歳の時安禄山(あんろくざん)の乱に遭遇し、賊にとらえられ偽官の罪を得たがのち赦される。晩年輞川(もうせん)に隠棲し、兄弟共に仏門に帰依(きえ)する。また画の名手にして南宗画(なんしゅうが=文人画)の祖となる。盛唐の三大詩人、李白(詩仙)・杜甫(詩聖)・王維(詩佛)